第2話 半分死んでる少年

 白い砂利のみの、だだっ広い道があった。みな、じゃりじゃりとすこし不自由そうな音をさせながらそこを歩いていた。──そしてその道は、太陽神のいる巨大なお屋敷にまで通じているのであった。


 ある日のこと。

 太陽神のお屋敷から、一人の少年が勢いよく飛び出したのであった。少年の名はホポロ、なんというか全体的に青白い少年だった。

 走りだした彼の足音はどうしてか、じゃりじゃり――ではなく、ほわりほわり、そんな具合に軽かった。砂利のうえだというのに。それに加え、彼は人並みをはるかに超えて、とても足がはやかった。走るごとにその勢いは増し、一歩で十歩分進むくらいには、すばやくなっていた。


 ホポロは走り続けた。地上のどこでもなく、上空にある長い長い色とりどりの風の帯の中にまでたどり着いてもなお走り続けた。

 ひゅぉおお、ひゅぉおお。――風の帯の中はそんな音であふれていた。そして、ただでさえはやい彼を、より軽やかにぐんぐんと加速させたのだった。


 そもそも誰も彼のことを追いかけていないというのに、それでもホポロは時折後ろを振り返りながら、何かを恐れている様子だった。


 その日の夜のこと。

 のっぽな木が立ち並ぶ森深くまで走りきると、ホポロは空中――いや、風の帯から降りたのだった。

 そして夜の真っ暗闇の中、彼は臆することなく叫んだ。


「ミザン──っ!ミザン、いないか?出てきてくれ!」


 しばらくすると森の中で、ザッガサッ、という木々が揺れる音がした。風による揺れではない。続いて「くくくけ、くくくけ」などと動物の声が聞こえた。すると、あたりが静まりかえった。

 ホポロはその気配だけでようやく緊張が解けたようで、表情が明るくなった。


 やがてホポロの前に、白い歯だけがくっきりと現れた。


 ホポロはそこに向かって「やぁ、ミザン。――夜の化身」と話しかけた。そう。体が夜の森にとけこんでしまうほどに黒い、この少年こそがミザンなのであった。


「よかった。なかなか現れないから、もう死んだんじゃないかと心配になったよ」

「ふむ、半分死んでるオマエみたくなれるかな。風の帯はそういうやつにしか見えないし扱えないからな」

「……あぁ、そうだったな。僕は半分死んでるんだった。今回は太陽国を旅していたのだが、そこにいる人たちにも、やはり僕のことなど見えていないようだったよ」

「そうなのか」


 ◇


 ミザンが棲んでいる洞窟の前で、二人は森で採った馬鹿でかい木の実にかぶりつきながら言葉を交わしたのだった。


「テラノイ?なんだ、それは」

「太陽神――、太陽国の王のことだよ。神とは言っているが、人だ。だが、普通の人じゃぁない。ミザン、オマエと同じで魂が見えるんだ」

「ふぅん」

「本当さ。いやぁ、彼と目が合ってしまい僕は怖くなって。そうだ!助けてやってくれないか?」

「何をだ」

「太陽神――いや、テラノイの中にある、乙女の魂をだよ」

「意味がわからない」

「そうか、そうだよな。いいかい?テラノイの中には魂が二つあったんだ」

「二つ?」

「そう。一つは彼自身の魂、そしてもう一つは霧雨の乙女の魂だ。僕はその彼女を見捨てて、ここへ来てしまったんだ。テラノイに無理やり閉じこめられていて、とてもツラそうだったのに」

「――そうか」


「っ……、息苦しくなってきた。そろそろ体に戻らないと。ごめん」


 ホポロはそう言い残すと、さぁっと消えた。と、同時に彼が食っていた木の実が地面へと落ちていく。地面スレスレのところでミザンはそいつを手におさめ、木の上にいた猿に、ひょいっと与えてやったのだった。

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