第1話 黒い大鳥
森深くの洞窟に棲みついた少年がいた。彼はミザンという名で、夜の闇を凝縮したような黒い肌をしていた。
ミザンが棲みついてからというもの、森にも洞窟にもほとんどの人が立ち入らなくなった。
時折は近くの集落の人たちが森に来て、食べるために木の実をもいだり、動物を殺したりしていたが、木の枝にぶらさがっているミザンを見つけると「夜の化身よーっ!」と魔物扱いをし逃げるのだった。
彼も彼でそれを面白がるようにして動物の声マネをして驚かせたり、怖がらせたりしていたので、どっこいどっこい、といったところだろうか。
まぁ、何があっても、昼はすぎ夜は必ず来る。
そうだ。夜になればミザンの世界。いくら猿のように身軽に動いても誰も彼に気づかない。そんな風にミザンはいつもひょんひょんとしていた。
ある昼のこと。
一人、木から木へと飛び移って遊んでいたミザンは、倒れている一羽の黒い大鳥を見つけたのだった。
彼は「ぅうう、ぅうう、きこきこきこ――……」と白い歯をにんまり出し、動物の声マネをしながら木から飛び降りた。そして黒い大鳥が暴れだしたりしないかとやや怯えながら、落ちていた小枝でつついたのだった。
しかし全く反応をよこさなかったため、それはやめた。やがてミザンは、かがみながら黒い大鳥をジッと眺めたのだった。
さらに彼は何ごとかを悩みはじめ、非常に長くうなり――……、そして――。
ぐぅう。
腹がなった。どうやら彼は空腹だったようだ。
◇
「んんんんん――っ!」
ミザンは黒い大鳥を、自分が棲んでいる洞窟まで引きずった。――そして黒い大鳥の体を優しくなでてやると、次には傷に効く薬草を採って来て調合し、暴れる力も残っていない黒い大鳥にそれを塗ってやったのだった。
「オマエを食べれば、数日はもったんだがな」――ミザンは黒い大鳥の世話をしながら、そうボヤいたのだった。
その後の天候はすぐれなかった。まるで空の世界で殺し合いでもしてるのではないか、というくらい落ちつきがなかった。
長雨のせいで洞窟の中の水が溢れかえってしまい、そのため森へと出たが、今度は日照りで体力が奪われた。ミザンは何とかして落ちつける場所をその日ごとに見つけたが、その度に空を睨みつけたのであった。
おまけに黒い大鳥はなかなかエサを食べず、糞だけは立派にした。何がミザンを突き動かしていたのかはわからないが、それでも彼は懸命に黒い大鳥の世話をしたのだった。
「はやく飛べる日が来るといいな」
そう声をかけて、ミザンは眠りについた。
そしてその翌朝のこと。
黒い大鳥はなんと、看病していた場所からいなくなっていた。残された黒い羽を拾い、ミザンはほんのすこしだけ沈んだ表情をした。
しかし次の瞬間には、ぐっと誇らしげに胸を張って朝日の光を浴びたのだった。
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