Dive to Witch's world ―6

 目を開けると、見慣れた天井が見えている。

 小さな頃から住み慣れた、孤児院の天井だ。


「サレナ姉ちゃん!?」

「大丈夫か!? 頭打ったのか!?」

「誰か、すぐに院長先生呼んできて!」


 周囲で弟や妹達が騒然とする中で、サレナは仰向けに寝ころんだまま荒い息を吐きつつ、見上げるその天井から目を離すことが出来なかった。

 腕の中には、恐怖で泣きじゃくる小さな弟をぎゅっと抱いている。

 階段でふざけていて足を踏み外し、転げ落ちそうになった弟を咄嗟に助けようとして、一緒になって階段を落ちてしまったんだった。

 すぐにその記憶が甦ってきた。

 そして、甦っている記憶はもう一つあった。


 それは、前世の自分の記憶。


 その時サレナが目を離せなかったのは、見慣れた天井からじゃなかった。

 目の前にぼんやりと浮かぶ、前世の自分の記憶の残滓――そこから目を離すことが出来なかったのだ。


「わた、しは――」


 荒い呼吸と共に、呟く。

 動悸が激しいのは、さっき階段を転げ落ちたせいだけじゃない。

 その時の衝撃で、今まで忘れていた全てを思い出したせいだった。


「私は……!」


 私は、"私"。

 あの時、石段を落ちそうになっていた女の子を助けて、二十一歳で生涯を終えたらしい"私"。


 そして、私はサレナ。

 今の私は、『サレナ・サランカ』。


 その名前が誰のものなのかを、前世の"私"は誰よりもよく知っている。


 それは、主人公ヒロイン


 忘れられるはずもない、短い人生で一番濃密な時間と愛を捧げた乙女ゲームである『Knight of Witches』の主人公ヒロインの名前だ。


「ということは、つまり――」


 その事実を口に出すことで改めて確認するように、呟く。


 "私"は、『Knight of Witches』の主人公ヒロイン――『サレナ・サランカ』に転生してしまったのだった。

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