Dive to Witch's world ―2

 『ナイウィチ』の物語としての出来の良さや面白さを構成する要素等々は、実はこのライバルキャラであるカトレア嬢の存在に依るところが大きかった。


 カトレア・ヴィオレッタ・フォンテーヌ・ド・ラ・オルキデ――舌を噛みそうなくらいに長ったらしい名前だが、今の私にとってはその響きの全てが愛おしく感じる程の存在。


 彼女は学院に入学したての主人公の二学年上の先輩にして、乙女ゲームにおいてはこれもまたオーソドックスな要素としての『ライバルキャラ』だった。

 文字通り主人公のライバルとして攻略ルートによってはその眼前に立ちふさがり、恋愛の成就を邪魔しようとしてくるようなキャラクター。

 このカトレア嬢も最初は典型的な"それ"であるように思われていたのだが、蓋を開けてみると実情は全く違っていた。


 では、その何が一体普通の乙女ゲームにおけるライバルキャラと違うというのか。


 その一つとして挙げるとすれば、まずこのカトレア嬢、全てのキャラクターの攻略ルートで必ず出てくる。

 しかも、"ルートによっては単なるちょい役として……"などというレベルではない、"全てのルートにおいて絶対にライバルキャラとして登場する"のである。

 つまり、主人公と同じく、このカトレア嬢も全ての攻略対象である男性キャラクターに対して何らかの関わりとドラマを持っているのである。

 これだけでも中々ライバルキャラとしては型破りに過ぎるところのある存在だが、なんとカトレア嬢の凄さはまだこれだけでは終わらない。

 通常ライバルキャラクターというものは主人公の恋路を邪魔するためだけの意地悪で傍迷惑な横恋慕をしているというものが大半であるのに対して、カトレア嬢は全ての攻略キャラクターから主人公と同じくらいに慕われ、想われている存在となっている。

 そのモテモテぶりは、もはや"裏主人公"と呼んでも差し支えないレベルである。

 そして、この二つの“乙女ゲームのライバルキャラとしては破天荒過ぎる要素”が組み合わさることで、どういう結果が生まれるのだろうか。

 答えは簡単。二人の女の間で揺れ動く一人の男という、恐ろしくディープでヘヴィーな愛憎劇が生まれることになる。


 有り体に言ってしまえば、この『ナイウィチ』という乙女ゲームは全てのルートにおいて"主人公とカトレア嬢が男を取り合う物語"となっている。


 まさしくメチャクチャである。

 言葉にしてみるとあまりにもメチャクチャなのだが、実際にプレイしてみるとこれが実に面白いのだ。

 そして、その理由としては、カトレア嬢のキャラクターとしての魅力というものが大きいことは間違いない。


 そうなのだ。

 このカトレア嬢は全ての男性キャラと関わりを持っている裏主人公なだけあって、外見はもちろん、その内面や性格もそれに相応しくなるようにとても個性豊かで、かつ魅力的に作られている。

 主人公の二学年上の先輩として、そして同じ男性に惹かれるライバルとして、時には激しくぶつかり合い、しかし時には助け合い、お互いに切磋琢磨し、導き、あるいは導かれ、最後には友情のような、愛情のような複雑な感情を二人の間に生まれさせながらも、全ての決着をつけることになる。


 何というか、あまりにも正しすぎる意味での"好敵手ライバル"キャラになっているのだ。


 そして、最後は主人公と攻略対象との恋が成就するのを見届け、それを認めたカトレア嬢は潔く、静かに身を引くというのが大半の物語における結末となっている。

 その、あまりにも濃密で波瀾万丈な女と女と男の恋物語は、どのルートもまさしくお腹いっぱいになるほどの感動と充足感を与えてくれる“ガッツリ系の恋愛ドラマ”だった。


 『Knight of Witches』という乙女ゲームは、そんな風に主人公とカトレア嬢の間で繰り広げられる本格派少女漫画のような、あるいは時に少年漫画のような分厚い関係性とその物語が評判となって人気を博した作品であったのだ。

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