Dive to Witch's world

Dive to Witch's world ―1

 とある乙女ゲームに、"二十一年の人生の中で、これが一番正気を失っていた時期"と自信を持って断言出来るほどのドハマりをしてしまった。


 ゲームの名前は『Knight of Witches(ナイト・オブ・ウィッチズ)』。通称『ナイウィチ』。


 ストーリーの出来の良さが評判となり、このジャンルの愛好家の間ではそれなりの人気を博していたゲームだった。

 私自身はさほどこのジャンルを愛好していたりするタイプのオタクではなかったのだが、かといってそれを毛嫌いしているわけでもない。

 自分から積極的に事前情報を仕入れてまで期待の新作をチェックする程でもないが、評判が良い物には興味を惹かれもする。

 『ナイウィチ』をプレイする前までは、乙女ゲームというジャンルに対してはそれくらいの距離感だった気がする。

 『ナイウィチ』に関しても、SNSでフォローしている界隈の中でちょっとした評判になっていたので、気まぐれと興味本位から購入してプレイを始めたのだった。


 そして、自分でも信じられないくらいにドハマりしてしまった。


 私自身にとって、別にこれが初めての乙女ゲームというわけではなかった。

 これまでもアニメや舞台演劇、イベントなんかが人気で話題になったものの原作を何本かプレイしてみたことはあるし、それなりに楽しんだし好きにもなった。

 耐性や免疫がなかったわけではない。

 では、『ナイウィチ』自体がこれまでの乙女ゲーム史を塗り替えるほどの斬新な傑作なのかというと、そういうわけでもない。

 純粋なゲームとしてのプレイ感は率直に言うならば可もなく不可もなく。システム的にはどこにでもあるタイプの、極々普通の恋愛アドベンチャーである。


 ストーリーに関しても、設定自体は非常にオーソドックス。


 『魔術』が存在するような近代ヨーロッパ風のファンタジーな世界において、ある日その『魔術』を操る才能である『魔力』に目覚めた主人公ヒロインが、同じく『魔力』を持った人間である攻略れんあい対象のキャラクター達の通う『魔術学院』に入学することになるという、割合"ありふれている"と言ってしまってもいいような物語。

 『魔力』は代々『貴族』の間で受け継がれることの多い力であり、『平民』でありながらそれに目覚める主人公ヒロインは珍しく、色々な意味で"特別"な存在として、貴族によって作り上げられた貴族のための格式高い学院に通うことになる……という設定も王道といえば王道だが、ありきたりといえばありきたりである。


 では、一体そんなゲームのどこに自分がこれほどハマりこんでしまったのかというと、やはりそれは"ストーリーの出来の良さ"という部分になるのだろう。


 『ナイウィチ』のストーリーは確かに面白かった。


 ド直球の王道ラブロマンスが攻略対象のキャラクターごとに手を替え品を替え複数本収録されており、それらは斬新さという点に多少欠けるところはあるものの、むしろそれ故に安定感のある外さない構成で骨太に組み上げられ、書き上げられていた。

 熱心なジャンル愛好家というわけでもない私でもそれらには非常に感情を揺さぶられ、時に切なく、時に激しく、時にはひたすらに甘々に綴られる恋物語は、俗っぽく言うならば"激しくキュンキュンしてしまう"代物だった。

 それは素直に認めよう。

 『ナイウィチ』は確かにストーリーのクオリティが高く、それ故に評判となっていた作品でもあった。

 しかし、厳密に言うとその"物語の良さ"は自分が作品にハマった要因の一つではあっても、あくまで副次サブ的なものであり、それがメインではなかったのだ。


 私が『ナイウィチ』にドハマりした本当の原因――それは、この作品の長所である"物語の良さ"を構成している一つにして、どこまでもオーソドックスで堅実な作りの乙女ゲームである『ナイウィチ』の"唯一の独自要素"とも言える"とある部分"にあった。


 その独自要素とは一体何なのか。

 『ナイウィチ』は攻略れんあい対象のキャラクター達が非常に個性的かつ魅力的であることは乙女ゲームである以上勿論のことではあるが、何故かそれらと並ぶくらいに物語上における主人公のライバルとなるキャラクターまでもが途轍もなく"濃い味付け"で作られていた。

 そして、何を隠そう私は、そんな並み居る魅力的な攻略対象の男性キャラクター全てを押し退けて、何故かその主人公のライバルとしての役割だけを与えられた女性キャラクター――――『カトレア・ヴィオレッタ・フォンテーヌ・ド・ラ・オルキデ』嬢の存在にドハマりしてしまったのだった。

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