第2話 心の湖
滝本がそういえばと言い、空を指さす。
早坂は何事かと思い、空を見上げた。
見上げてからしばらくすると、天から壮大な音楽が降り注いでくる。
早坂は今までヘッドホンでしか音楽を聴いてこなかったので、音楽を浴びているようなその状況に驚き、何もない空をただ見つめた。
音楽が止むと、早坂は自分が泣いていることに気がついた。酸素と言ってもいいほどの推し作曲家の中に流れる音楽は、血液を沸き立たせるかのような感動を与えたからだ。涙が止まらない。
横にいる滝本はそんな彼女を見つめるばかりであった。
それからまた長く時間が経った時、滝本は立ち上がり言った。
「仕事の時間だから、僕は行くね。ここは危険なことはないから、好きに歩きまわってくれて構わないよ。君のことも調べてくるから、黄昏時にここに来てくれるかな?」
「わかりました」
早坂はただ頷き、そのまま糸が切れたかのように眠りについた。
それを見届け、滝本は上着を早坂に掛け、少し笑った。
そして、塵となり、天へ昇った。
早坂が目覚めたのは、おそらく昼時だと思われる時間であった。自分に掛けられた上着に気づいて、天に感謝する姿は実に面白い。気が済むと不思議とお腹は空かないが、無性に喉が渇いて仕方がないと思った。そのために、川がないかを探しに、草原を歩くのだった。
海とは反対の方に歩いて、しばらく経った時、大きな湖が見えてきた。
きらきらと輝くそれは、小さな海のようだった。
早坂は近づき、一掬いして、口をつけた。その瞬間に、頭の中に滝本の泣き声が聞こえてきた。怒って泣いているのか、悲しくて泣いているのか、状況は全く分からないが、それでもこの水は、滝本が今までに流した涙なのではないだろうかと感じるのであった。そして、滝本の泣き声につられて、早坂も涙を流してしまうのだった。
空が暗くなってきた頃、早坂は泣きながら最初の場所に戻っていった。
あの後も喉の渇きに耐えられず、水を飲んでしまったのだ。
飲んでいる間、滝本の泣き声が聞こえており、耐えられずに早坂も泣き続けていた。
そのせいで、顔はくしゃくしゃだ。
最初の場所に着いた頃にはすでに、滝本はその場所にいた。
心配そうに早坂の顔を見ながら。
「君の泣き声がずっと聞こえていたんだ」
そう言う滝本も泣きそうだと思った。早坂は真っ赤な目を細め、笑うのだった。
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