第二話 なんて?
ON-AIR #05
今日は進路指導室へ呼び出された。
課題の結果から今後の進路について絞っていくそうだ。
他人事のように考えるスタイル。
そうでなければ将来の事なんて今から語れるわけないし。
先の事なんてさっぱりわからないもん。
「押戸君、パソコンって興味ある?」
これはまた何の脈絡もない質問を投げられた。
「パソコン? 興味というか、好きだよ」
なんだか「好き」というと惚気ているように聞こえてしまうのは僕だけかな。
アナちゃんと二人きりの今、「好き」なんて言うとその、こう、何と言いますか……。
「パソコンが好きならインターネットは好きよね?」
「まあ、パソコンが好きって事はインターネットが好きと考えていいと僕は思うけど」
ああ駄目だ。
『インターネット』の部分をアンナに変えて妄想してしまう。
妄想が暴走して妙に緊張してきた。
というか恥ずかしいぞ、これ。
『ナルちゃんが好き』だったら今から校内放送で叫ぶ余裕はある。
「課題を頑張ってくれたので進学のお手伝いは出来るんだけど……」
「だけど、何?」
アナちゃんは何かのパンフレットと思われるものを鞄から取り出すと、少しの間表紙を見つめてから僕に向けて差し出した。
何だろ。
「押戸君にはぴったりな所だと思うの」
「というと?」
アナちゃんは表紙をめくって説明を始めた。
「ここは少し専門的な学校なの。押戸君なら配信って分かるわよね?」
「うん、わかるよ」
え。
ここで配信なんて言葉が出てくるとは思わなかった。
「僕が配信のことを分かるってなんで思ったの?」
「い、い、いつもナルとかいう子の話をしているじゃない」
「……そうでした」
学校中に知られているわけか。
毎日ナルちゃんの事ばかり口にしていれば当然か。
「パソコンそのものから、パソコンで出来る色々な事を教えてくれるのよ」
「へえ」
「他にもいろんなコースがあるのだけど……」
そんな学校があるのか。
「工業高校?」
「ではないけれど、専門課程が豊富な所でね。まだ新しくて、押戸君のような生徒を募集中なのよ」
僕のような生徒とは。
「出来の悪い奴が行く所ってこと?」
「違う違う! 全く逆よ。押戸君のように秀でた所がある子こそ通って欲しい学校よ」
なんですと!?
この僕が秀でていると!
それって言い換えると天才ってことでファイナルアンサー?
「アナちゃん、あなたはお目が高い」
「私は真剣に話しているの!」
怒っちゃった。
可愛いなあ。
怒っていても語尾に可愛さが滲み出ている。
「どうかしら。もちろん、ご両親とお話をしないといけないけれど」
「面白そうだから僕は構わないけど、うちの親が難しいかも」
「どうして?」
「パソコンはオモチャとしか思っていないから。その考えを改めさせようと何度も話したんだ。でも無理だった」
パソコン絡み。
いやそれだけじゃない。
僕がやること全て遊びだと考えている。
「そこは私のお仕事ね。面談で説得してみせるから」
アナちゃん……。
もしかして僕に……いや、ないない! 何を考えているんだ!?
でも先生ってそこまで頑張ってくれるものなのかな。
それともアナちゃんが特別なのか。
もしアナちゃんだけがそうだとしたら……そんなの、惚れちゃうじゃないか!
ON-AIR #06
真剣なアナちゃんには負けたなあ。
お勧めされた学校のパンフレットぐらいは見てみるか。
この学校、アナちゃんの言う通り変わったコースだらけだ。
普通科はあるけど、他は専門的なものばかり。
音楽、デザイン、演劇、映像……。
ふーん。
それぞれ細かい内容だなあ。
待って。
この映像科って配信とかあるぞ。
動画の編集、グラフィックもある。
いいな、これ。
「あ、全然話してないですね。ごめんなさい」
勉強配信中だった……。
でもリスナーさん達は、いつも喋りっぱなしな奴が静かだと新鮮らしい。
普段どれだけ話しているんだか。
こちらの心配とは逆で、僕が真剣に勉強していると思ったら作業に集中できているよって。
作業をしていない人も、かかっているBGMと少しだけ動く僕を眺めてボーッとリラックスしていたというコメントが流れてくる。
僕は顔を出さずにキャラクターとして出演している。
サイリウムを持って目を輝かせている一人のファンという設定のキャラ。
普段の僕をそのまま設定にしたんだ。
「僕、この先も配信はしていきたい。そのために必要なことを教えてくれる学校へ行こうかと思う。先生から勧められた所なんだけどさ」
ゆっくりと流れていたチャット欄が激しく上へと流れだした。
……全部のコメントが僕への応援メッセージ。
目が熱くなってきたんですけど。
こんな僕なのに応援してくれている。
「皆さん、僕を泣かせてどうするんですかあ!」
メンバー登録する人が現れる。
投げ銭させろとコメントする人まで出てきた。
機能を止めているから投げ銭は受け取っていない。
親もうるさいから。
それでも何をしているのか意味の分かっていない親だ。
メンバーシップは適当に専門用語を散りばめたらねじ込めた。
「成績が悪すぎてそこにしか行けないだけなんだけどさ、頑張ろうかな」
コメントは笑いと応援の言葉で埋まっていった。
ON-AIR #07
「そう……良かったあ、その気になってくれて。あなたの成績だと、一般受験で入るのは難しい所なのよ、そこ」
「そうなの? じゃあなんで僕は入れるの?」
アナちゃんは片手で胸をポンと叩きながら僕に言った。
「私には強い味方がいるからね。ちょっと強引ではあるんだけど、なんとかなるのよ」
「色々と気になることだらけのような。でも僕の立場じゃアナちゃんに頼るしかないし。よろしくお願いします」
アナちゃんは、髪の毛がフワッと浮いたのではないかと思うほど驚いて僕を見た。
「押戸君……あなた、やっぱり実はいい子でしょ!」
なんだよその、やっぱりって。
僕がいい子だと思っていたことになるじゃないか。
「アナちゃん、こんな出来の悪い生徒をからかってはいけません」
「何を言っているの、押戸君はいい子です! 私が保証するわ」
ど、どうしてそんなにいい子扱いしたがるのさ。
やはりアナちゃん、僕のことを……いや、無いってば!
「アナちゃんって、小悪魔?」
「それはどうかしらね。押戸君次第じゃない?」
なーにーそーれー!
ど、ど、ど、どういうことなのかな。
小悪魔なの?
いや、それを超えてすでに悪魔になっているかも。
中学生の僕を惑わさないで!
「ではその学校で話を進めるわね。今度の三者面談で親御さんも交えてお話しましょう」
ON-AIR #08
さて。
僕はアナちゃんお勧めの高校を目指すことになった。
推薦らしいので、簡単な試験と面接があるとのこと。
その『簡単な試験』というのが僕の最大の難関だ。
今までの授業をこなしていれば、決して難しくはないらしい。
ところが受けるのは僕だ。
今までの授業をまともに受けていたら、成績で困ることにはなっていないだろう。
「だからね、当分勉強枠になります」
慣れない勉強をするために、配信をしてリスナーに見守ってもらう毎日となる。
リスナーも今では応援するために視聴してくれるという、なんとも温かい世界。
進学できたら感謝回をしないと。
ああほら、もう配信の事を考えだした。
「はじめまーす!」
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