Vアイドルを推していたら進路はなんとかなりました

沢鴨ゆうま

第一話 推し過ぎて草

ON-AIR #01


 よし。

 チャットの様子は……。

 いいねぇ。

 チャット欄は待機の文字だらけ。

 これを眺めているのが好きなんだよな。

 もう少しメンバースタンプ増やそうかな。

 けっこう使ってくれているし。

 って、本当はこんなことしている場合じゃない!

 高校受験を控えた中学三年生だぞ、押戸おしと ゆう

 なら聞くが、あんなにリスナーが待機しているのに配信やめられるか?


 ――無理だな。


 勉強しようとはしているんだ。

 そりゃあ受験生だもの。

 だけどさあ、机に向かうとかっけぇパソコンがあるんだよ。

 配信しない手はないだろうってもう一人の自分が背中を押してくる。

 配信時間を短くすればいいんだよ。

 リスナーに「今日はここまで!」って言うだけだ。

 今が九時だから、三十分ぐらいで切り上げよう。


「それじゃ、始めようかな。ええっと、いつものが……無いや。飲み物とプリン!」


 あ、ミュートしていないや。

 まあいっか。

 飲み物とプリン取りに行くだけだし。

 

 とは言うものの……。

 いい加減、オープニングを流している時からマイクをオンにするのをやめないか?

 先日登録者数が五万人を超えたライブストリーマーの穂村ほむらトオルさん。

 僕の大事な化身なんだから頼みますよ。

 

 そういえば、初めは携帯から配信していたんだよな。

 パソコン関係に強い従兄がいるって幸せ。

 サブのパソコンくれるなんて、神だよ。

 高校生なのに強強つよつよなパソコンばかり持っているなんてさ。

 確かバイトはしていなかったはずだから、おじさんが買ってくれるんだろうな。

 うちの親はパソコンをオモチャとしか思っていないからなあ。


 シズム兄ちゃんの弟になりたい人生でした。


 Vアイドルという尊い存在を教えてくれたり配信のやり方を全部教えてくれたり。

 おまけにプロゲーマーを目指しているなんて、カッコ良すぎ!

 パソコンを見る度に合掌しています、シズム兄ちゃん。


「あちゃー。ナルちゃんの好きなクリーム乗っけプリンが無い! 無い!」


 なんてこった。

 昨日、加根羽かねはナルちゃんが食べていたものと同じのを食べるつもりだったのに。

 推しと同じことができないなんて。

 ナルちゃんの魅力について語るライブストリーミング配信者としてあるまじき事!

 でも無いものは仕方がない。

 今回は代わりのプリンでやろう。


「まったく、一緒に食べている気分になりたかったのに」


 おっと、もう始めなきゃ。

 ココアと冷凍プリンをサイドテーブルに置いて、と。

 うわ、チャット欄がにぎやかだなあ。

 ああ、ミュートしていないからか。

 いつもの事だから気にしない気にしない。

 

 マイク、いけるか?

 モニター、お前はいつも元気だったな。

 神パソ様よろしくお願いします、合掌。

 ミキサーのつまみを操作してBGMをチェンジっと。

 このツマミをいじるのが好き。

 

 それでは、僕の世界へ行こう!


「『今日もやってんねぇチャンネル』はじめるよ!」


ON-AIR #02


「ちょっと、こーら!」


 視界が揺れる。

 ナルちゃんと花畑で追いかけっこしているというのに台無しだ。

 誰だよ、人の眠りを邪魔するヤツは。


「いい加減に起きなさい、押戸君!」


 僕の名を呼ぶ人物!?

 クラスの連中が僕を呼ぶわけがない。

 なぜなら、ナルちゃんの話しかしないからだ。

 だって、頭の中はナルちゃんしか存在していないんだから、しょうがないじゃん。

 呼んでいるのがナルちゃんであって欲しい!


「誰だよ」

「先生です!」


 あ……ここ学校だった。


「あ」

「あ、じゃないわよ」

「アナちゃん、許して」

「それ、やめないから許さない」


 担任の先導せんどうアンナ先生。

 先生らしからぬ可愛さ。

 いつもそんなにいい匂いさせてにっこりしてくるってことは……。

 もしかして僕に――。


「目を覚ましなさいってば!」

「んが? あ、はい」


 またやらかした。

 そして今日もみんなに笑われた。

 僕って可哀そう。

 こんな時、ナルちゃんを見ることができたら癒されるのに。


「君の成績はぎりぎりでギリッギリなんだから、しっかりしなさい」

「お前どんだけヤベえんだよ!」


 さらに笑われた。


「アナちゃん、ひどいよ」

「勉強しない成瀬君が圧倒的に酷いでしょ!」


 はあ。

 勉強したってさ、また学校に行くんでしょ?

 そんなの辛過ぎる。


「……」

「押戸君、勉強しよ? お・ね・が・い!」


 へ?

 アナちゃん!?

 おいおいおい、なんですかこれは!?


「あの……助かります」

「先生、なんでそんなことするんだよ!」


 うるせえなあ。

 アナちゃんは僕を助けようと手を差し伸べてくれたんだろ?


「助けることができた? なら勉強してくれるよね」

「……考えてみます」

「即決してよお」


 可愛いんだよ、アナちゃん。

 ナルちゃんに近いところがあるんだよな。

 毎日マジで助かっている。

 好きだ。


ON-AIR #03


 ……。

 アナちゃん、本気でお願いしていたな。

 あんなに悲しそうな顔をされたら困るよ。

 サービスまでしてくれちゃってさ。


 九時か。

 配信しなきゃ……。

 そうだ!

 勉強しながら配信すればいいんじゃね?

 作業枠とかやっている人いるし、僕の仕事は勉強だから。

 それなら配信と勉強の両立ができるじゃないか!

 ふっふっふっ。

 僕って天才。


ON-AIR #04


 廊下は走るもの。

 そしてスライディング!

 制服が埃まみれになるのが玉にきず

 ここは三組の前だ。

 おい三組! ちゃんと掃除しろよな!


「アナちゃん!」

「あのね、先生と呼びなさいって何度……押戸君?」


 何それ。

 僕なら先生って言わなくてもいいの?


「アナちゃん、これ」


 配信をしながらとはいえ、せっせと慣れないことをしてしまった。

 アナちゃんから出された課題。

 成績がヤバいからこれをクリアしてちょうだいって言われたやーつ。

 課題をこなせばなんとかしてくれるってんだから、アナちゃんは優しい。

 好き。

 何をどうやって、どうにかしてくれるのかは全くわからないけど。


「あら、もう出来たの!? 押戸君、やっぱりやればできるんじゃない!」

「お褒めにあずかり光栄です」


 ボウ・アンド・スクレープをしてみせた。

 アナちゃんにはしたくなる時がある。

 お姫様感があるのかも。

 好き。


「なんだか王子様みたいね。でも内容が酷かったら追加するから」

「酷い前提で話さないで」


 おお!

 めっちゃニコニコしてくれた。

 助かる。

 姫様ではなくて天使か?

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