第3話 ふたりだけの学校
辿り着いた二人ぼっちの校舎。そんな学校の三階にあるあたしたちの教室で、あたしは鬼嫁のレナに見守られながら朝から夕方までみっちりしごかれた。居残りの再テストもあった。録画映像の中のお偉い先生たちはキビキビ教えてくれるだけで助けてはくれない。なぜ世界はこうも残酷なのか。ひぎぃ。
「お疲れ様、ミウ」
「うん……本当にね……」
放課後の机に突っ伏す。また文庫本を読みながらあたしの再テストを待ってくれていたレナがオレンジジュース缶を持ってきてくれた。ぐびぐび。
「んぱー! やっぱり100%はウマイ!」
生き返るあたし。教室の窓からはあの突き刺さった飛行機がよく見えた。どこかの戦闘機らしいけど詳しいことはわかんないし興味もないっす。それよりも、夕陽に照らされてキラキラと無数の宝石みたいに光る海がキレイだった! たぶん、見えないだけで海の中にもめっちゃ残骸が溜まってるんだろうけど!
「あっ、ねねレナ。ダイビングとかどうかな?」
「ダイビング? 海に潜るってこと?」
「うん! サンゴとか見てみたいし! イルカと一緒に泳いだりとかもさー! よく昔の映像でそういうの見るじゃん!」
あたしが身を起こして夢を語ると、レナは海の方を静かに見つめながら、少しだけ間を開けて答えた。
「……そうだね。でも、ダイビングって免許がいるんじゃないかな」
「あ、そっか! けどそれくらいなら通信講座でいけるよね? レナも一緒にとってさ、二人で潜りまくろうよ! それで終わったら温泉! うひゃーリア充じゃない!? 十八になったら運転免許もそっこー取るぞー! 自動運転で楽だし、そしたら行動範囲も広がって、レナと一緒にどこでもいけるじゃん! ホッカイドウもいけるじゃん! ねっ、すっごい楽しみじゃない!?」
思いつくままに思いつきを語るあたし。いや思いつきだけど別にいいじゃん! ワクワクが止まらないじゃん! だってあたしたちまだ高校生だよ! これからなんでも出来るっての! そのために生きてるわけだし!
レナはそんな鼻息を荒いあたしをじーっと見つけて、やがてぷすっと吹き出した。
「レナさん!? 今お笑いになりました!? あたくしの夢をお笑いに!?」
「うぅん、笑ってないよ」
「どうみても笑ってたっすよ! レナのキレーな顔崩れたの久しぶりに見たよ!」
「笑ってないよ。すごく良い夢だと思ったよ」
「んもーすぐそうやってごまかすぅ! ふんだっ、どーせあたしのことおバカさんだって思ってるんでしょ!」
机をばんっと叩いて立ち上がるあたし。レナがびくっとなってこっちを見た。
「けどあたしだってバカなりに考えてるんだもん! いつかぜんぶ終わっちゃう前にどうやったらレナともっと仲良くなれるかって! どうやったら二人ぼっちで幸せになれるかって! あたしもいろいろ考えてるもんね! レナは頭が良いからあたしの夢なんて叶うわけないって思ってるかもしれないけど、あたしはっ――」
「思ってないよ」
レナがぎゅっとあたしの手を握った。
声が止まる。
レナは海みたいに綺麗な瞳であたしだけを見つめながら、また、強く手を握った。
「思ってないよ」
もう一度同じことを言った。
それからレナは、両手で包んだあたしの手を自分の胸元に持っていった。ふに、とレナの胸の柔らかな感触が伝わってくる。
……なんかドキドキしてきた。
レナが同じ言葉を繰り返すときは、本気のときだってあたしは知ってる。
それに――レナが普段見せないような顔をしてるから。うう、ド、ドキドキしてるのバレてないかな!?
「ミウ」
「ひゃい!」
「これからも、二人でいろんなことが出来るといいね。ミウの夢が、叶うといいね」
「……レナ」
「だから、まずは学校をちゃんと卒業しようね。今のわたしたちは、今だけにしかいないんだから」
「……う、うん。えと、な、なんかごめん」
なんか照れる。めっちゃ照れる。思わず顔を逸らしてしまった。レナがどんな顔をしているかわかんないけど、笑っていたような気がする。
そのときふと思った。
〝もしかするとがもしかする世界〟がやってきたら。
あたしたちは、今のあたしたちのままでいられるんだろうか。
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