第2話 ふたりだけの町


 翌朝もめっちゃ暑かった。もう下着姿で寝たいくらい!


「おはよーレナぁ。今日あちゅいねぇ」

「おはようミウ。はい、制服だよ。顔洗ってきてね」

「ふぁーい……」


 遅刻とかないんだし慌てなくていいじゃーんと思うことあるけど、レナがいなきゃたぶんあたしはどこまでもダレちゃうから、これくらいがちょうどいいよね。

 さっさと支度を済ませた(ていうかレナにほとんどやってもらった)あたしは、レナと一緒に家を出た。眩しい朝日にちょっと目を細める。

 明るさに目を慣らすと、見えてくるのは水平線の絶景だ。

 レナと選んだこの一軒屋は海がよく見える高台の上にあって、毎朝これでもかってくらいの景色が拝めるのだ。朝の輝く海、ホント最高だよね! あっついけど!


「じゃあ行こっかレナ! 途中でコンビニ寄ってこ!」

「うん。でも、朝ご飯ならうちで用意出来るのに」

「いいのいいの! いつもレナに作ってもらうの悪いしさ。それにあたし、登校途中にコンビニ寄って~みたいの好き! 昔の女子高生ぽいじゃん!」


 ニカッと笑うと、レナは黒い日傘を広げて『しょうがないなぁ』みたいな呆れ顔でついてきてくれる。そういうところ、あたし好きじゃなぁ。



 高台から街の方に降りて、まずは馴染みのコンビニに寄る。

 無人の店内を爽快に駆けめぐり、缶詰だらけの棚からいつものオレンジジュースの缶を一つと、メロンパンの缶二つを棚から拝借。我慢出来ずにその場で開けて食べたら「行儀が悪いよ」とレナに叱られた。へへ。でもこういうのが自由を満喫してる感、あるよね。食べ放題飲み放題、夢みたいじゃないですか! そう言ったらレナは少し考えて、「……ちょっとわかるかも」とつぶやいた。さすがあたしのレナさん! 世界一愛してる! 優しいし頭も良いし料理も出来るし言うことなし! もう結婚だよ! 嫁になってください!


「いいよ」


 とレナは真顔で答えた。うわーいやったぁお嫁さんゲット! これで今日のレポート決まりじゃない!? まさか結婚出来るなんて思わなかった!


「それじゃあ、お嫁さんとしてびしびし教育していくね。お勉強の時間をもっと増やさなきゃ。アニメは一日三十分。ゲームは一日十五分。お菓子は一日チョコ一粒。タピオカは週に一回」

「やっぱりこの契約は破談にさせていただけないでしょうか!」

「ダメだよ。私、絶対に別れないからね」

「鬼嫁だったのでは~~~~~~!?」

 涙目になるあたしをよそに、スタスタと歩いていってしまう鬼嫁。ピンとした綺麗な背中は、なんだか軽快なように見えた。


 それから二人で朝の海岸線を歩く。あたしはもう二度と使われないボロボロの線路の上を歩くのが好きで、落ちそうになるといつもレナが支えてくれる。

 途中、いつもの青いベンチで海を見ながら一緒にコンビニメシをいただいた。レナはミニ日の丸弁当とほうじ茶のセットなことが多いなぁ。ちょっとおかずをもらった。梅干しがすっぱい。

 食べ終わったら、また海沿いを学校までとことこ歩く。緩いカーブの先に見える、海底に突き刺さったままの飛行機や座礁した船が良い目印だ。

 あれを越えて坂道を五分くらい登るとあたしたちの学校がある。あたしは制服の可愛さだけであの学校を選んだけど、暑すぎてもうずっと夏用の制服しか着ていない。つーかこれでも暑いくらいだよね。日焼け止め必須だし! 海が好きだからこの街を選んだけど、日差しの強さは考えてなかったなー!


「ねぇねぇレナ、今日さ、久しぶりに泳いで帰らない? 学校に水着置いてあるし! あたし専用の浮き輪もあるし! 街の方は海キレイだしさ!」 

「いいよ。ちゃんと小テストを頑張ったらね」

「えー聞いてないよー!? ていうかなんでテストなんてするんですか! もう勉強の必要ないじゃんかー!」

「〝将来のため〟だよ。もしかしたら、もしかするかもしれないから」

「もしかする確率どれくらい?」

「ミウが毎朝時間通りに起きる確率くらいかな」

「絶対ムリじゃん! 時間通りに起きれるの四年に一度くらいじゃん!」

「オリンピックみたいだね」

「あー! もうオリンピックも観られないの思い出したー! もう四年経ってるのに! 四年どころか何十年経ってるのに! おもいっきり夏なのにー!」

「残念だね」

「まーしょうがないよねー。あっ、てゆーかそれならあたしたちでオリンピックしようよ! 競技もしっかり決めて、メダルも作っちゃうの! 勝ったら金! 負けても銀! メダリスト確定! 二人ぼっちのオリンピックだー!」

「楽しそうだね。じゃあその前にテストを頑張ろうね」

「うんっ! ――はぁっ!? 思わずうなずいてしまったぁ! レナ策士すぎるよ~~~!」

「そうでもないよ」

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