ふたりぼっち、永遠の夏

灯色ひろ

第1話 ふたりだけの部屋


「ねーねーレナぁ。ていうかさ、これってなんか意味あるのかなー? “ふたりぼっち”なあたしたちのレポートなんて、どうでもいいじゃんよー!」


 机上の電子モニタに顔を突っ伏したまま、口に咥えた電子ペンをぴろぴろさせるあたし。今日の分のレポートはいまだに真っ白なので、とりあえず先に名前だけ書いといた。それもサインぽいやつ。あー、もう昨日と同じでコンビニの美味しいお菓子ランキングでも更新して載せよかなー。提出期限まで三十分もないし。ていうか今夜も暑いなぁ。もうずっと夏じゃん。ナニコレ。エターナルサマーじゃん。


 チラッと隣を見る。

 ソファに座って昔の古~い文庫本を読んでるパジャマ姿のレナは、なんだか映画のワンシーンみたいにキレイだった。この子さぁ、何度見ても美しすぎません? 何あのツヤツヤストレートな黒髪。くせ毛のあたしには羨ましさしかない。肌も白いしスベスベだしおっぱいもおっきいし、お風呂上がりのこの色気はなんなんだろう。ほんとに同い年なんだろうか。


 なんて思っていたら、レナは本から目を離すことなく口を開いた。


「ぼっちだから意味があるんじゃないかな」

「そういうもんー?」

「たぶんね」

「そっかぁ。レナは今日、何書いたの?」

「これ」


 レナはそこで本を閉じると、古びた表紙をあたしに見せた。


 ――『渚にて』


「それ面白い?」

「面白いって感想を書いておいたよ」

「なるほどぉ読書感想文的な……! レナはいいなぁ、本いっぱい読んでるからネタがいっぱいあってさー!」

「ミウだって、アニメやドラマをたくさん観ているじゃない。その感想を書いてみたらどうかな」

「いくつかはやったけど、あたしそういうの苦手なんだよー。それにさ、後でレポートにしなきゃって前提で観ちゃうと、そっちが気になってちゃんと作品を楽しめないじゃん! それは作品やクリエイターさんに失礼だと思います! あたし〝ながら見〟とか出来ないタイプなんで!」

「ん……ちょっとわかるかも」

「でしょっ!」


 レナが顎に人差し指を当てながら同意してくれて、あたしはちょっと嬉しくなって上半身を起こす。

 うっ、ずっと座りっぱなしだったから身体がバキバキだ。これは大変! もうレポートなんて書いてる場合じゃないぞ。こんなの女子高生がやることじゃない! ――あっ、ていうかこれネタにしよ! ええっと、レポートを一生懸命書いていたら疲れて腰が痛くなった一日でした、まる、と。ハイ今日の分おしまい!


「やったーおわった間に合ったー!」

「斬新なレポートだね」

「えへへ、そうでしょ! じゃあレナ、一緒にアニメの続き観よっ!」


 ベッドの上にダイブしたあたしは、脇をぽんぽん叩いてレナを呼んだ。うち自慢のクイーンサイズベッドはふっかふかの最高級品で、二人で寝ても十分すぎるくらいなのだ。そしてテレビも超ビッグサイズ! 女子高校生には贅沢すぎる品だろうけど、これくらいの贅沢はさせてもらってよかろうて! あたしは地球のクイーンよ!

 レナは文庫本をベッドサイドに置いて、あたしの脇にぽすんと腰掛けた。目の前にレナが一つ結びにした長い髪先がぷらぷら揺れて、思わずネコみたいにパンチする。


「いいけど、もう十二時になるよ。夜更かしはほどほどにしないと」

「やだやだやだ! あたしたちは自由! あたしたちを縛るものはレポート以外になーい! 青春盛りの女子高生なんすよ! もっと自由を謳歌しないとだよ! なんなら今からホッカイドウとか行っちゃう!?」

「どうやって?」

「そりゃあ車とか飛行機とか電車とか!」

「私たち免許ないし、飛行機も電車も動かす人いないよ」

「じゃあ自転車!」

「アオモリまでなら行けるだろうけど、フェリーや電車がないとトンネルを渡れないから無理だよ」

「そ、そ、それなら泳ぐとか!」

「ミウ、泳げるの?」

「うっ!」

「運動神経はいいのに、ミウが泳げないのは不思議だよね。そもそもホッカイドウは遠すぎるし、気温もこっちと変わらないみたいだよ。あんまり意味ないかも」

「ううっ!」

「それに、あっちの方にも誰かいるかもしれないよ。ふたりぼっちじゃなくなるかも」

「ならば中止ぃ! 中止です! アニメタイムです! アイドルアニメ観ましょう!」

「二話だけね。明日も学校あるから」

「ていうか学校はもう休もうよぉ~~~!」

「ダメだよ。私たちは女子高生なんだから」


 今日も上手いことレナに諭されてしぶしぶ二話だけアイドルアニメを楽しむことにしたあたし。めちゃくちゃ面白くて続きが気になる眠れないよぉ~~~って思った一分後くらいにはぐっすりでした。そうそう、レナと二人で宇宙アイドルする夢みたんだけど、こういう路線もありだったかもしれませんね!

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