16

「今度はなんだよ」


 黄色が金、黒が死、なら白はなんだ?当然の疑問に女は答える。


「それをひとに向けてボタンを押すとその相手は即座に昏睡し三時間は目覚めぬ」


「こ、昏睡?」


「眠るだけじゃ。ほれ、探偵物の創作に他人を眠らせて腹話術で推理を語るやつがあるであろう?ああいう使い方もできる便利な道具よ」


 他人の口座から金を勝手に移したり押すだけで死んだりする今までの効果に比べるとずいぶん大人しいな。

 けれども、大人しいのは効果だけだった。


「それでわしと似た背丈の女をひとりかどわかしてまいれ」


「…は?」


 かどわかし、ってなんだ?文脈からなんとなく想像はついていたが黙ってスマホを手に調べる。

 ひとをだまし、あるいは力ずくで連れ去ること。

 誘拐。

 そうだよな。

 それ以外の意味はないよな。


「できねえよ!!だいたい誘拐してきてどうしようってんだ!?」


 俺に怒鳴り散らされた程度では微塵も効いた様子なく女は続ける。


「その女をわしと同じ容姿にしてやるゆえあとは好きにするがよい」


「…は?」


「貴様が首尾よくひとり用意すれば、その女を髪も顔も乳も尻も穴という穴の内側隅々までわしと同じ姿に加工してやろうと言うておるのだ」


 誰だこいつのこと神なんて言ったやつ。まるっきり悪魔じゃねえか。


「身長もなんとかなるが少々手間ゆえなるべく近い背丈の者を選んでまいれ。ああ、肉は少なかろうが多かろうがわしがぴったり合わせてやるでのう。気にすることはないぞ。歳もな」


 女は胸を見せつけるように両腕を頭の後ろに回して背を逸らす。少し前まで存分に捏ねまわした魅惑の感触が蘇り生唾を飲み込んだ。


「そいつは、その、どうなるんだ?」


「どうなる、とは?」


「たとえばその、元の姿に戻れたりするのか?」


「戻せんとは言わぬが」


「戻せるのか…」


 俺は暫く考え込む。

 といってもなにも考えてなんかいやしない。心の踏ん切りがつかないだけだ。


「貴様とてわしのような女より、おなじ容姿ならもう少し従順なほうが好みなのではないか?んん?」


 甘く囁かれたその一言が決め手だった。

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