17
一度部屋を出て再び戻ったときには、俺は背中にひとりの女を背負っていた。
「戻ったかタカシよ。首尾は…良さそうだのう?」
女が相変わらずベッドに腰掛けたままそこに居た。こいつはいつ眠ってるんだ?
まあ、こいつに睡眠なんて必要ないのかもしれない。そう思える程度には、俺はこの女が超常の存在であると認めていた。
「たまたま公園をひとりで通り抜けようとしてたやつが居てな。人目もなかったからさっと片付けてきた」
「そうかそうか、ようやったな。偉いぞ」
女は満足げに頷くと立ち上がり、背中の女をベッドへ寝かすように促した。俺は指示されるままにして一歩下がる。
「ふむ。では暫し待つがよかろう」
眠っている女に向けて手をかざすと、なんの前振りもなく突然その肢体が爛れたように崩れ始める。皮が、肉が、溶けて原型を無くしほとんど骨ばかりの姿へと変貌していく。
「あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
意識を取り戻したのかまだ無意識のままなのか、ベッドに横たわる女が忘我のままに濁った悲鳴のような声をあげはじめた。
「お、おい。めちゃくちゃグロいけど大丈夫なのか」
「問題ない。黙って見ておれ」
悲鳴はさほど大きくないが、こんなものが外に漏れるのは不味い。止めるべきか迷ってそわそわしていると女が溜息を吐いて視線だけこちらに向けた。
「案ずるでない。この部屋はわしが来たときから防音を施してある」
「ほんとかよ…」
初耳だ。
「貴様の無様な啼き声も外まで漏れておらぬゆえ安心せい」
「ぶざっ」
言葉に詰まるが彼女は気にした様子もない。
舌打ちしながらベッドの女に視線を戻すと、見るも無惨だったその姿は再び肉を帯び肌の色を取り戻しはじめていた。
それだけではない。
連れてきたのは少しくたびれた感じの、いわば俺と同世代と思しき中年女だった。
しかし再生された部位にその面影は欠片もない。
抜けるような白い肌、光を映さぬ黒い髪、その切れのある目鼻立ち、なにもかもが瑞々しく若い生気に溢れている。
そしてなにより、あらかじめ聞いていたとおり神を名乗るこの女とうりふたつだ。
「少し服がキツいかのう」
女が呟くとそれだけで寝ている女が着ていたカジュアルなデニムとセーターが分解し赤い薄絹へと変貌する。
「どうじゃ、これでよかろう」
起きてドヤ顔をしている女とベッドに横たわっている女を交互に見比べる。同室にいなければ区別のつけようがないほどに完璧だ。
これを、今から俺の好きにしていいのか。
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