13

 女は大きな溜息を吐いて心底呆れた顔をした。蔑みや嘲りではない。完全に馬鹿を見る目をしている。


「わしが与えた玩具でわしを殺せると、本当に思うのか?」


「は?」


「できるわけなかろうが。愚かにもほどがあろう」


 ぐ…言われてみれば確かにそうだ。そんな危険なものをなんの保険もなしに他人に手渡すわけがない。


「だいたい仮にわしが拒否しても貴様にそのボタンは押せまい。ひとは殺せぬと泣き言を吐いたばかりの貴様にはのう。それとも密かに死体とよろしくやるような願望でもあるのか?ブックマークにはそういう性癖のものはないようじゃが」


「か、かか、勝手に見たのか!?パスかかってたのにどうやって!」


『わしにとっては人間のかけたセキュリティなどあってもなくても大して変わらぬ』


 突然視界の外から女の声がした。女は目の前にいるにも関わらず、だ。

 女に半ば覆いかぶさった姿勢のまま視線だけをパソコンのディスプレイへ向けると、いつの間にかロック状態が解除されている。

 画面にはひとつのウィンドウもアイコンも立ち上がっていないにも関わらず、パソコンのスピーカーから女の声が流れてきていた。

 いったいどんな仕掛けだ。あらかじめハッキングされてたのか?


『ハッキングと言えばそうとも言えるが別に仕込んでおいたわけではないぞ』


 俺の思考を読んだかのようにスピーカーの声が答える。


『読んだかのようではない。実際に読んでおるのだ。貴様はこの期に及んでまだわしを信じておらぬようだのう』


 スピーカーの声が小さく溜息を吐く。


『信心が浅い。やはり人間というものは何十と世代を重ねても変わらぬな』


 そこでスピーカーからの声が途切れ、目の前の女が言葉を続ける。


「甘い汁ばかりでなく少し痛い目にあわねばわからぬらしい」

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