8月11日

 やばいな。心が乱れているのが分かる。原因は彼女だ。いつもいつもかわいらしい笑顔で俺に話しかけてくれる。瑞樹君、なんて下の名前で呼んでくれるし。そんな人小学生のとき以来じゃないか? そのうえ俺にも下の名前で呼ぶことを強制してきて…。無難に生きていきたいのに恋愛感情を持つなんて、というかこんな感情を持つなんて予測できなかったぞ。こんなので人生うまくいくわけがない。そう思いつつも頭の中のもう一人の自分が語り掛ける。

(でも好きになったんだろ?)

(恋愛しながらでも無難に生きていけるんじゃないか?)

(もう無難に生きるのをやめてもいいんじゃないか?)

 自分の気持ちが素直な気持ちを伝えてくる。

 今日で班活動の講義は終わった。それはつまり行動を起こさなければ彼女に会えなくなるということだ。


 1週間悩んだ。悩んだが、この1週間彼女に会えておらず、寂しいという本心が勝ってLINEを送った。全部を告白して楽になろう。あわよくば…、という気持ちがないわけでもない。

「こんばんは。急な話だけど明日の夜会えないかな。」

ご飯でもどうかな、とか理由をつければよかったと思ったがもう送信していた。

 10分後、LINEの通知音が鳴った。

「こんばんは。明日はちょっと用事があって…」

なんだ、断られたじゃん。あわよくば、なんて思いあがったこと考えてしまって恥ずかしい。やっぱり無難が一番だ。

 なんて考えているとLINEの通知音がもう一度鳴った。

「なので用事が終わったあとでもよかったら。ちょっと夜遅くになりそうだけど。」

男の気持ちを落として上げる、無意識なのか、はたまた策略なのかもしれないが、見事に引っかかってしまった。LINEを続けていると、どうやらバイト終わりらしい。きっと疲れているだろうからゆっくりできそうなカフェを探し、そこに誘うLINEを送って明日を心待ちにした。


 カフェで他愛もない話をした。ここに書こうにも緊張して覚えていない。二人きりで会うとこんなに緊張するものなのかと驚くほどだった。

 彼女からプレゼントをもらった。おしゃれな置時計だ。プレゼントをもらうこともこれから起こることも、今日彼女と会えていることすらも、今夜起こる全てが描いていた未来を上回っている。緊張で頭がパンクするほど幸せなこの時間をまだまだ味わっていたいが、閉店の時間を知らせる音楽が鳴る。

 少し歩こうよ、という彼女の言葉に救われ夜の町を歩く。公園のベンチに座り、暗く静かな町に一際光る彼女の横顔を見て、俺の口が自然と開いた。

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