第211話 バ━━━━カ!

 おれと参は昼にお風呂入っていたので、ちょっと考えたけどやめておいた。

 ハジメが帰ってくるまで、しばらくおれの部屋で話してた。


「みんな、おれのことで悪いな」

「そういうこと、考えなくてもいいよ」


 ベッドの上であぐらをかいてる。

 参ってほんと盤石感ある。シルエットは完全に頼もしいお父さん。

 そしていつも、穏やかな表情だ。


「滝夜にかこつけて、みんな自分のやりたいことをやってるんだよ。マコは運営をしてみたかったし、りらちゃんはアイドルの裏方をやってみたかったし、なつきはグッズ作ってみたかった。ここに来るのはレジャーだし、嫌なことはひとつもしてないよ」

「へえ、そうなんだ。そうならいいけど」

「むしろ滝夜のプライベートを侵害してるようなもんで、そっちを気にするんじゃない? 普通」

「おれのプライベートなんて大したことないよ」


 真下さんにしろみんなにしろ、支えてもらってる気しかしない。感謝こそすれ、文句なんか言えないよ。

 そこへハジメがホカホカして入ってきた。


「は~、お風呂サイコー」

「おかえり~」

『滝夜さん、今通話いいですか?』


 突然輝夜が言った。何だろう。


『波野真夏さんからです』

「誰?」

『彩のメンバー、青野鷹也さんのお相手の方です。相談があるというので……』

「へ~。いいけど」


 知らない女子からかかってくるなんて、おれの人生に未だかつて無かった経験だ。

 のんきな風でOKしたけど、もちろん内心はドッキドキだ。


『つなぎましたよ。どうぞ』

「こんばんは、久我です」

『……』


 輝夜のセリフはおれにじゃなさそうだ。

 うん、初めてしゃべるの、緊張するよな。分かる。

 おれは急かさずに、彼女が話し出すのを待った。


『真夏さん?』


 輝夜の方がじれて促す。

 まあまあ、待ってやれよ。


『……エ……』

「え?」


 なんか言った。

 頑張って。

 すると、彼女は言った。いや叫んだ。


『オマエなんかぶっさいくだしぜんぜん似合ってない! ちょっと剣道できるからって調子に乗りやがって何様?! ちゃらちゃら写真撮られて舞い上がってんじゃねーよっ、バ━━━━カ!』

「はあ?!」

「っだよ、こいつ!」

『ちょ、ちょっと真夏さん、なんてこと言うんですか!』


 輝夜がうろたえてる。

 おれは放心してさっきの言葉が頭に響き渡るのを聞いていた。


『ごめんなさい、まさかそんなことするとは思わなくて……真夏さん、謝って下さい』

『謝んない!』

「なんじゃそれ……」


 ハジメがヒートアップしてなにか言おうとするのを、参が止める。

 それを呆然としたまま、見ているおれ。


『真夏さん。いけませんよ。分かっていますよね?』


 輝夜がマジレスモードで諭しているけど、なかなか言葉は出てこない。

 それを別の世界のできごとみたいに聞いている。


『真夏さん』

『だって……』


 ブスッとしたような声。

 辛抱強く待つ輝夜。

 やがて彼女は言った。


『有名人とカップルになって本人も有名になったら叩いていいんでしょ? なに言ってもゆるされるんでしょ? だったらあたしが言えるのコイツしかいないじゃん! うわ~ん!』


 彼女は泣き出した。

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