第208話 大人の事情

「3年前の大編成による合理化が進んで、一人あたりの業務はかなりスリム化したと聞いている。どうしてそんなに余裕がないんだ」


 3年前? おれ達はみんな小学生だ。

 真下さんは何度か言いよどんだけど、寺井さんをにらんでる感じは崩さない。


「……仕事の適量などというものは結局、ファンタジーでしかないんだ」

「曖昧だな」

「我々は公僕だ。これだけ、と提示されたものをこなすことが仕事ではない。関係ないでは済まされないんだ、やらない訳に行かないだろう」

「そういうのが積もり積もってブラック霞ヶ関とか言われていたんじゃないのか、強制労働省」


 なんだか恐ろしいやり取りが交わされているけど、仕事って大変だな……

 真下さんは、ハー、と目を閉じて息を吐くと、切り替えるように言った。


「それはいい。ともかく省に余裕なんかないと分かってもらえば」


 そして冷めてしまったであろうお茶を飲んだ。


「取材と言ってしまえば容易に大人が接近できる。そういったことも我々は阻止しなければならない」

「なるほど」


 真下さんの横顔を黙って見つめ、真面目に相づちを打つ。


「それで日程だが、研修後一週間、土曜日か日曜日の午前中でいいかな? リモート環境はあるだろう。VRでもいいな」

「聞いていなかったのか!!」

「ハハハ、聞いてたさ。まあ、窓口は今後ウグイスちゃん一本ということにすればいいじゃないか。君は決定だけすればいい」


 大人のやり取りをだいたい聞いたところで、おれ達はコショコショ話し始めた。


「べつにインタビューくらい良くない?」

「うん」

「守ってくれはるんは嬉しいけど、そこまでせんでも」

「というか、安全に研修できるんならその方がいいじゃん」

「ちょっと時間取られるけど」

「ていうか」


 ニコッと笑って、マコが言った。「研修来週!」

 みんな笑った。

 そうだ、おれも楽しみ!


「今度は仕事やな」

「もうどこでやるのか決まってるのかな」

「そらそうやろ。急にはどこも無理だって」


 なんかおかしいかもしれないけど、こういう勉強ならぜんぜんできるんだなあ、おれ達。

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