第198話 ピンポ~ン

 ピンポ~ン


 珍しい音がする。

 朝、ハノさんも師範も出払って、おれとハジメで洗濯物を干してる時にインターホンが鳴った。

 今、小猫いないわ。


「おれ行ってくる」

「よろ」


 階段を降りて玄関へ行くと、ドアのガラス越しに見えた顔は────


「おはー」


 手のひらパーにして、マコちゃんがおれを見ていた。

 驚いてドア開けると、となりには参。


「久しぶり。どうしたの」

「うん、いきなりごめんね。ハジメいる?」

「いるけど?」

「お邪魔しま~す」


 中へ入っていく後ろ姿を見送って、脳内は???

 ハジメに用があるんだ?


「今洗濯物干してて」


 と言ってる間にハジメも階段を降りてきた。


「おはよ~っす」

「おはよー」

「じゃあ、こっち。2階だから」


 促されて、二人とも2階へ上がる感じ? おれには用ないの?

 ちょっと淋しいぞ?


 と思ったら、参がマコちゃんの背中を突っついて、うなずき合った後、おれを見て言った。


「お寺案内して」


 うっ、良い声。

 なんか相手してくれる感が否めないけど、いいや。


 二日ぶりに外へ出たら、暑かった。

 家の中はもう、空調が当たり前になってるから季節は感じにくい。

 ハノさん家は楽器使ってたせいか防音もしっかりしてるし。


「そういえば、優勝おめでとう」

「え、ありがとう」


 その声で言われるとドキッとするな。


「最近何してるの?」


 その質問に、ちょっと驚く。

 いつも無口で、あんまり世間話とかしないのに。

 気、使ってもらってるのかな。


「モコに本貸してもらったんだけど、それずっと読んでた。昨日まで」

「へえ。どんな本?」

「ええと、吉原御免状っていうやつ」


 あれこれ怒濤の如く語りたくなったのを押さえて、タイトルだけ控えめに伝えてみる。

 知らない人からしたら、ちょっと意味不明なくらい熱くなってるのは自覚してるから。


「読んだことないな。どんな話?」

「それ、聞いちゃう?」


 今語らせるとヤバイですよ?


 それから延々、寺内で師範に会うまでずっと、一方的に語ってしまった。

 参はそれを、穏やかな笑顔(元々の顔?)で、ずっと聞いてくれた。


 さすが参。

 懐が深い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る