第199話 お寺
境内で荷物を運んでいた師範を見つけ、ぺこりとする。
「おはようございます」
「おはよう」
「初めまして、石上参と申します」
「これはご丁寧に。連絡頂いております。ごゆっくりしていきなさい」
やっぱ、連絡してるんじゃん。
何しに来たんだろう。
泊まるのかな?
それから、おれ達は初めて手水舎で清め、参拝した。お賽銭は持ってなかったけど。
何度も来てるのに、一度もしたことなかった。参について行ったら自然とそうなっただけだけど、反省?
宗教ってよく分からない。
「参はよくお寺とか行くの?」
「初詣とかくらいだよ。なんで?」
「なんか慣れてる感じがしたから」
「こういうのは大抵決まってることをするだけだから。手を合わせても、別にお願いしてる訳じゃないし」
「えっ! そうなの? おれ、また勝てますようにって願っちゃった」
「それはいいんじゃない? 心の中のことは自分だけ知ってればいいんだよ」
ううむ、なんか深いぞ。
「宗教な訳じゃん、一応」
「ああ、そういうこと? それはさ、ちゃんと知りたかったら和尚さんとかに聞けばいいし、僕の事なら、そうだな」
参は一度言葉を切って、歩き出した。
「お寺や神社は好きだし、初詣にも行きたいしおみくじも引きたい。単純に好みの問題で、信心とかではない。でも、こういうことを言ってもたぶん受け入れてくれるのが日本の宗教だと思ってるよ」
「ほー」
言われてみると、おれだってそうだ。
仏像もお経の中身も知らないでいるし、救って下さるって思わないけど、鐘の音は大好きだしお坊さんの声も好きだ。
雰囲気が好きだなんて、ふわっとしたことしか言えなくて、恥ずかしいと思うことはあるけど。
「外国はまた違うんだろうな」
「それは国や人によるんじゃないかな」
「そうだね」
少なくとも、何にも知らないおれが言えることは何もない。
「そういえば、初めて来た時、中村さんとお父さんが一緒にお坊さんと話してたな」
「そうなんだ」
「中に上がると仏像があって、その手前で」
「へえ。いいな」
「聞いてみたいんだ」
「うん。勝手な思い込みだろうけど、お坊さんって何でも相談に乗ってくれて、いいこと言ってくれそうな気がする」
「確かに」
きっとこれもおれ達の思い込みで、たくさんいるお坊さん達も色んな人がいるんだろうけど。
ぐるっと寺内を回ってから、おれ達は戻ってきた。
朝、輝夜がジム使えないって言ってきてたから、おれの予定はもうない。
「今日何しに来たの?」
のど渇いたので、冷蔵庫の麦茶をもらう。
参と並んで座り、二人で飲んだ。
「僕はただの付き添い。ハジメに用があるんだって」
それって、デートではないのか?
少なくとも行き帰りはデートだよな?
「日帰り?」
「ちょっと分からない。もしかしたらそうなるかもって話はしてたよ」
なんだか、真面目な話っぽいな。
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