第177話 無敵であれ

 ルルルル


 ベッドサイドの電話が鳴る。

 正直慣れない。この電話に限らず、電話というものの音、受話器の存在、プッシュボタンや付随するすべてのものに違和感がある。モーニングコールの説明書きを発見した時は、さぞかし目が覚めるだろうと、ぞっとした。


「はい」

『伊野様がご到着です。坊ちゃんがご案内します』

「────」

「……どうなさいました?」

「いや、了解した」

「失礼します」


 ダメって言ったのに。まあ、ここは彼の家だ、仕方ないか……。


「ウグイス、何故止めん」

『ごめんなさい、止めたんですけど』

「どうすれば良かったか検算しろ」

『はあい』


 言葉だけで人を動かすことは難しい。まして思春期の子どもだ、無理なんだろう、それは分かる。でも、できるようになってもらいたいし、できると思ってもいる。ウグイスには無敵であってほしい。


 コンコン


 来た。


「こんばんは。ハルタ少年ありがとう、帰って良いよ」

「えーっ、つまんないこと言わないでくださいよう」

「ウグイスからダメだと言われてるはずだ」

「そうだけど……」


 しょぼんとした顔は愛らしい。甘え方を知ってる顔だ。羨ましい。

 彼の研究については聞いているし、多少の興味もあるが今じゃない。


「ハジメ少年、明日は6時にここを立つ。起きたらフロントまで来るように」


 そう言った途端、ハジメ少年はドサッと荷物を取り落として、ガックリと肩を落とす。


「6時……」

「わーい早起き~」

『起きられなかったら置いてって下さい』

「嫌や起こして」


 ウグイスの辛辣さを見ると、相当朝が弱いな。うん、付き合ってはいられない。


「分かった。6時ちょうどにいるいないに関わらず出発する」

「もう寝ます! おやすみなさい」

「おやすみ」


 慌てて隣の部屋へ行くハジメ少年を、笑いながらハルタ少年が追う。

 友達、か。

 さて自分も寝なくては。

 明日の手順は何回も確認した、今やれることはもうそれだけだ。

 いや、祈ってもいい。神などいないと、知っていても。

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