第149話 大人にならない
「滝夜、洗って拭いてしまっとけよ~」
にこやかな顔で鬼畜な言動、いつもの朝湖。
おい悠&渡、何故今ここにいない! 妹という存在の現実を思い知らせてやるのに!
「しまうのは手伝うわ。どこにしまうかわかんないでしょ」
母さんまでヒドイ。
「がんばってね、滝夜」
「皿を割るなよ、ヒェッヒェッヒェッ」
味方がいない……
仕方なく自分の皿を運んで洗い始める。
なんかおれ、いっぱい働いてない?
洗濯だってたくさん干したのにサ……
「小猫ちゃん、しっかり使ってやってね。当番決めたり」
「片付けと掃除じゃな」
「滝夜ゴハン作れないもんね」
おまえが言うか? ハルたんよ。
「ごめんなさいね、教育しておくべきだったわ」
「なんの。これからじゃよ」
「小猫ちゃんのお手伝いすれば覚えられて一石二鳥かもね」
ニッコリ笑顔でおまいう重ねてきた!
つい言い返してしまう。
「自分だって覚えたらいいじゃん」
「メリットないんだよね」
表情も変えずサラッと言い返された。
「大人になったら必要じゃん」
「全然必要じゃないよ。僕にはね」
そういう返され方したら何も言えん。
そりゃお坊ちゃんには必要ないかも知れないけどさ!
今だっておれらは手伝ってたのにおまえは何もしないで寝てばっかり、不公平だろ!
泊めてくれたって恩はあるけど、別に一緒に行動したっていいだろ? その方が楽しいし。
「滝夜、そういうんじゃないんだ」
無言で皿洗いを続けるおれの表情がこわばってるのが分かる。
「滝夜が想像してるようなことじゃない」
「ハルたん」
小猫が陽太を止めるように袖を引く。
「いいんだ。皆に内緒にしてくれれば」
えっ、何? 何言おうとしてるの……?
「僕、死ぬんだ。だから大人にならない」
この場所が空間ごと固まった気がした。
どう言えばいいのか、どう反応すればいいのか一瞬戸惑ったおれを見て、陽太はニコッと笑った。
そしてひとりで出てった。
小猫を含めておれ達は、見送るしかなかった。
人が死ぬということについて、おれは心の持ち方が分からない。
ただ混乱が引き起こされ、それが長い時間のうちにおさまっていくけど、それは触れないようにしているからで、少しでも風が吹けばすぐに混乱が巻き起こる、そういうもの。
悲しみや寂しさや思い出や、関係するすべての思考が混乱のるつぼにぶち込まれ、自分という入れ物は悲鳴を上げる。
整理することはできない。少なくとも今は。
今は巻き起こる混乱の渦をどうやって押さえ込もうとそれだけで精一杯。
「滝夜」
小猫が声を掛けたけど、そっちを向くことすらできない。
するとヤツはこう言った。
「皿、洗えよ」
────心配してくれたんじゃねえのかよ!
「ヒェッヒェッヒェッ」
笑いながらぽてぽて出て行く小猫の背中を見ながら、肩の力が抜けていくのを感じた。
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