第148話 尊敬に値する妖怪

 だだっ広い畳の上で足蹴にされる世界の不条理。


「ふつーに起こしてお願い」

「ヒョヒョヒョ」


 これが妖怪スタンダードだったらどうしよう。


「お昼じゃよ」

「ありがと!」


 小猫についてって食堂へ行くと、母さん朝湖、陽太もいた。カレーの良い匂い。ごはん作ってくれたのは誰だ……?


「自分でよそって食べや」

「了解」


 大盛りにして、僅かに逡巡、陽太のテーブルに皿を置く。小猫、お茶注いでくれた。


「サンキュー」

「ゆーあーうぇるかん」


 妖怪英語? 意味不明なダメージを受ける。


「いただきます」

「いただきます」


 カレーは食べられるギリギリの辛さ。美味い。


「カレー、誰作ってくれたの?」

「ワシじゃ」

「……」


 しばし絶句。いや失礼か。


「めっちゃ美味いです。お見それしました」

「ヒョヒョヒョ、尊敬しても良いぞ」

「小猫ちゃん、何気にすごいよね~」

「うむ、すごいぞよ」


 なんだか今回のイベントで一番株を上げている小猫。

 もはや妖怪とか呼ぶのは失礼に当たるのでは……?


「小猫ちゃん、美味しい! 作ってくれてありがとう」

「辛いけど美味しいよ! 後で作り方教えて~」

「レシピは門外不出じゃ」

「ええ~」


 朝湖、残念そうにしてるけど、レシピなんて気にしたことないだろ。ってか、そもそも料理自体したことないじゃん。


「とか言って、何となく作ってんでしょ~」

「正解じゃ」

「そんなモンだよ」

「そうなんだ~。すご~い!」


 陽太は作ってるとこ多分見てないのに、なんで分かるんかな~。


「昨日からずっと世話してくれてありがとうね。大変だったでしょ?」

「それほどでもないのでご心配なく」

「いつも笑顔で、中学生とは思えないわ。しっかりしてる」


 にんまり顔以外の顔、見たことないけど、それもかなりすごいことかも。

 周囲に褒められすぎて、実は大人なんじゃないか疑惑。


「そういえば滝夜さん、何か用あったのでは?」


 満足げにご馳走さましてお茶を飲み干した母さんが、思い出したように聞いた。


「なんだっけ」

「朝、ご飯の前に言ってたじゃない」


 覚えてないの? と、至極情けな~い顔をした。母さんには苦労かけるのう。

 あ、思い出した。


「師範がおれに御刀を作ってくれるって言うんだけど、どうしよう」

「御刀って、真剣を?」

「そう。いくらですかって聞いたらいらないって言うからさ」

「分かった、お話してみる」


 そういう訳にはいかない、おれが思ったお金についての気持ちは間違ってなかったようだ。


「じいちゃん、滝夜のこと嬉しいんだよ。僕がダメだった分さ」

「そのお気持ち有り難いわ。なるべく丁寧にお願いしてみるね」


 陽太はおれに喋ったのに、母さんが返事した。陽太は曖昧にうなずいて、残りのカレーを食べてしまう。


「ご馳走さま」


 一番さいご。食べるの遅。

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