第147話 みんな行っちゃヤダよう
「あ~良かった帰って来て。ウグイスちゃん、ありがとう」
玄関先で母さんと朝湖が待ち構えていた。なんだ?
「さっさと部屋行って掃除に参加して」
あっ、そうか!
なんだか旅館とかに泊まってる気分だったけど、陽太ん家だもん、使ったら綺麗にしなきゃな。
慌てて部屋に戻り、既に進んでる大掃除に加わる。
「何したらいい?」
「ぞうきんがけして。あ、固く絞ってな」
「了解!」
なんか申し訳ないな。と思いながらゴシゴシしてたら、悠くんが「なんかゴメンな」と言った。
「なんで?」
「いや、俺ら帰るじゃん?さっきみんなでシーツ類洗濯機かけたんだけど、干すのオ・マ・エな?」
ウインク☆
イケメンウインク初めて食らった。だからといってどうという訳じゃないけど。
とりあえずおれは申し訳ないって思う必要はなさそう。
でも、もう帰っちゃうんだな。
寂しいよ、実際。
「ハイお掃除終わり! 掃除道具は元の場所にしまってね」
「は~い」
「ぞうきんは……」
「まとめてバケツに入れて。滝夜さんが洗濯する」
「ハ~イ!」
おいおい……仕事増えてんですけど?
いやまあいいけどさ。
片付け終わり、手を洗って荷物を手に取る。さあ、祭の終わりだ。
だだっ広い畳の部屋に、ぽつんとおれの荷物だけが残されてる。
「やだよう、みんな行っちゃヤダよう」
おれが言ったのかと思った。
軍曹の言葉にみんなが笑う。
みんながこっち見て、そしてみんなが背中を向けるんだ。
ほんとヤだ。
「ヒマな奴はまたおいで」
ハッとして振り返ると、小猫。そうかコイツだって陽太だっているじゃん。
ちょっとホッとした。
「ホントに来ちゃうぞ?」
「うむ良いぞ」
いつもにんまり顔の小猫の顔も、心なしか寂しそうに見えたもんね。
「時間あったら来るわ」
「うん、来る来る」
そしてみんな一斉にぺこり。「お世話になりました~!」
「じゃあまたね!」
「バイバイ~イ」
ばらばらに背を向けて歩き出す。
軍曹はちょっと待ってくれて、それから「じゃあな」って手を振った。
駐車場へ向かうらしい、あの地味な女性のところへ小走りで行って、やっと理解する。
「あの人、軍曹のお母さんだったんか」
「うん。なんかノルマみたいに仕事してった。違うって何度説明しても分かってくれなくってサ」
親同士のアレコレも色々あったんだろうが特に聞きたくはない。
みんなの姿は早々に消えて、後ろにいた小猫の姿もこつぜんと消えていた。
「さ、洗濯物でも干しましょうか」
おれ達3人は、恐ろしい量の大物を干しまくって疲れてしまい、昼にたたき起こされるまで仮眠した。
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