第114話 妖怪に騙された!

「お邪魔します。母と妹の部屋まで用意してくれてありがとう」

「部屋なんか余ってるからいいんだよ」


 そう言ってハルたんは、う~ん! と伸びをした。

 なんか可愛いなハルたん。


「すごい部屋だね」


 触れない訳にはいかない話題だ。

 根掘り葉掘り聞きたいという理由よりは、簡単な名前を付けて安心したい感じ。


「ふ~ん、そう? あ、ここでは自由にしてくれていいから。もう寺には行った?」


 ふ~ん、そう? で片付けられたおれの気持ちは。


「行ってない。この上にあるんだよね?」

「上? ああ、裏から来たんだね」

「裏?」


 そもそも寝てたので、どの道を来たのかなんて知らないんだが。


「簡単に言うとね、山を半球と考えたら、道路はたすき掛けに通ってるんだ。滝夜が来たのは裏で、表が拝観路」

「ふ~ん」

「お店とかみんなそっちにあるから、そっちから来たかと思ったよ」

「へえ、知らんかった」


 ワタクシはーみんな母さん任せであったことをーここに反省しまーす。

 ハルたんはそこでニヤッと笑い、片膝を抱えて言った。


「またね。今は下、行きなよ。きっとみんな来てる」

「おまえは?」

「あーとーで」


 子どもか!

 どちらにしても、今は降りて来そうにはなさそうだ。おれはひとまず一階に降り、廊下でできた迷宮にチャレンジすることにした。


 玄関は分かる。その先の長い廊下を行って、右……?

 ぐるぐる歩いて、母さん達の部屋を通らずして、大部屋にたどり着いた。


「迷ったのか?」


 ニヤニヤと小猫が笑う。


「うるせえ」


 迷いました!


「お、誰かが来たぞ」


 鶏がいる庭の向こうに、誰かが来たのが見える。

 そうか、こっから見てたのか。おれ達が来た時も、小猫はこの部屋にいたのかも。だから長い廊下を歩いて来ても、そんなに時間かけずに迎えに出て来れたのかも。


「やれ面倒な。いっぺんに来たらいいのにのう」


 八十のおばあさんのようなことを呟きながら、小猫は立ち上がって部屋の右手へ歩き出す。

 右側は壁だぞ?? と思って付いていったら、突き当たりの左手をガラッと開けた!


「あれ……」


 なんだ、死角になっていた、そんなところに戸があったんだ。と思いながら出てみれば────


 ────そこは玄関!!


「なんだよ、すぐじゃんか!!」


 あのぐるぐる歩いた距離は一体なんだったんだ!


「ヒョヒョヒョヒョヒョ!!」


 その笑い声、ヤメロ!


「妖怪め!」


 騙された!!

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