第113話 ふとん物体ハルたん
どんな風に廊下を歩いたか、後でもう一度覚えなきゃ。
とにかく部屋についた。
「ここじゃ。みんなはまだ」
広い和室、中央に巨大な座卓に座布団、大きな窓の外には庭に鶏。
何畳くらいあるんだろ、さっきの部屋の3倍はある。柔道の試合ができそうだ。
「この部屋は男子、もう一部屋は女子用、いちおうな」
わあ、楽しみ!
暴れたい!
「貴重品はロッカーにな。いまどきじゃろう?」
「よく人が泊まるの?」
「まあ、従業員や親族がな」
「すげぇ……」
想像できない。
「荷物を置いたらゆっくりしておれ。わしはハルたんとこ行っておるからの」
「あ、おれも行く」
荷物置いてついて行こうとすると、嫌そうに目を細められた。
「まあ、いいかのう……」
え、いいの? 嫌なの?
小猫にこんな反応されると、よく分からんぜ。
ハルたんの部屋は二階だった。
もう一度さっきの部屋に戻れと言われても一人じゃ行けなさそうな距離で、それは多分部屋が端っこだから。ハルたんとこは正面に戻ったぽい場所からすぐの階段を上る。
迷ったら行こうかな。
「ハルたん」
想像に違わず、少し高さのある寝台の床に延べたふとんの上に、丸まったふとん物体として微動だにしないハルたんがいた。
しかしなんだこの部屋────
寝台の周りは、目に邪魔なほどのモノが溢れている。
何が置いてあるのか一つ一つ追うのが辛いほどの量。雑然としているようで整然としてもいる、広すぎる部屋にきっちりと隙間なく置かれた数々の物体は、何かの機械や楽器、またはくだらないおもちゃのようなものや、本雑誌など。
正座した小猫を見て気付いたけど、床が畳じゃない。絨毯が敷いてあるけど、たぶんコンクリ? この家、純和風日本家屋に見えて、実は鉄筋コンクリートなのかもしれない。
「────発明家?」
ふいに口をついて出た言葉に、小猫が振り返る。
「ヒェッヒェッヒェッ、よく分かったの……驚きじゃ」
振り返ったのにおれを見ずうつむいたのが不思議だった。
「ゆうべも遅かった。まあ起きんじゃろ、行こうか」
そう言って立ち上がろうとした時、もぞっとふとん物体が動いた。
「んー……」
声掛けづらいな、起きて欲しい訳でもないし。
夏休みなんだからどんな風に時間を使っても本人の自由だろう。人に迷惑をかけない限り。
そう思って見ていたら、思いのほか思い切った動作でむくっと起きてこっち見た。
「あれ? 滝夜」
そんな純真そうな顔で意外そうな表情しないでくれ。
「もう来たんだ。みんなは?」
「まだ。たぶん」
「そろそろじゃな」
小猫はそう言って部屋を出た。
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