第86話 妹が良きモノであるという幻想

 3歳児は、片付けるしイスも並べる。

 遅い子やできない子がいると、手伝う子もいる!


「えらいね~!」

「マーくんはね、いつもおそいから、カスミンがてつだってあげるんだよ!」

「そうなんだ~、やさしいね」

「うん! カスミンはやさしいんだよ!」


 当然! な顔をして主張するカスミン。

 ちっちゃな子が言うと、微笑ましくて可愛い過ぎ。


 みんなが座ると、おやつの時間。

 先生のオルガンで歌う。


 ────ちゃんと歌だ!

 音程と音量はともかく!


「もう歌えるんだな」

「うん。なんか成長著しいね」


 まるで参観日の親のようなセリフを、咲良としてしまった。

 なんか後からじわじわ恥ずかしい。


「ちょ、……」


 こしょこしょ声で呟いて、肘で小突いてくる。


「えっ、な、何……」


 顔見ようとしたら、背けてるし、何?


「照れんのやめてよ……」


 えっ、ちょ、バレ……

 余計恥ずかしい!

 顔熱くなってきた……


「わ、ちょ……もう……!」


 見られてる!

 と思ってチラ見したら、咲良も顔、赤い……!

 ちょっと、どうしたら……


「恥ずい恥ずい」

「こっちが、困ってるんだ、けど」


 げんた&ゆめペアにも気付かれた!

 もう冷静になるしかない!

 落ち着けおれ、プール、カキ氷、冷蔵庫、南極、ペンギン、シロクマ……


「だけど、咲良さんは子どもと遊べるね、めっちゃ遊べるね」

「昔、ちっちゃいお友達がいてね。まあ、自分も子どもだったんだけどね」


 はやばやと普通に戻って、ゆめさんに答える咲良。さすが女優。


「1年くらいかな……よく遊んだの」

「へえ~すごいすごい~」

「すごくはないけど」


 なんでもすごいって言う人なんかな、ゆめさん。


「弟とか妹がいるのかと思った」

「いたら良かったな、妹とか」


 一人っ子が兄弟欲しがるのは仕方ない。

 存在しないものはファンタジーだし、夢なら良いことしか見なくてもいい。

 実際いたとしたらって考えるなら、おれだって兄ちゃんいたら良かったとか、全然考えたない訳じゃないし。


「妹がいいんだ」

「うん。可愛いかっただろうなって」


 そこへ、暫みたいな顔で、げんたくんが言い切った。


「妹が、良きモノ、である、というのは、幻想です!」


 一体どうした。


「妹、妹いるんだ~」

「あんなの、妹、じゃない……!」


 何があったのか、げんたくん。

 まあ、おれも妹いるけど。

 別に普通だけども。


「私、私、妹! 妹です」

「ホラね」

「どういう意味? どういう意味??」


 兄弟についての幻想を語り合う前に、そろそろおやつが終わる。

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