第87話 みんな忘れてるだけだ

 ごちそうさまでしたを言ってお片づけ。


「テーブルを移動しま~す」


 お皿運んだり綺麗に拭いた後、少しバラけて置き直す。


「今日は、折り紙をしましょう」


 りょうこ先生が、大量に折り紙が入ってると思われるケースを、各テーブルに置いていく。

 子ども達は一つのテーブルに四人ずつ座って、折り紙に手を伸ばす。

 どれも違う色が出て、バラバラになってると分かる。


「むっくん、あおがいい」

「せんせー、すきないろでいい?」

「順番に使って下さい」


 ダメなんだ。

 好きな色使いたい気持ち、分かるけど。


「ひろくんいいな」

「オレあかがよかった」

「あおのほうがいいよ」

「あかがいいって」


 譲らないな、ちょっと笑える。

 そう思いながら自分も一枚取る。何作ろう?

 いや、そもそも、鶴しか折れない件……


「順番に使わないと、一部の色ばかり残ってしまうから、順番に使います」


 そう言われると、残してた記憶、灰色とか茶色とか。地味な色ばかり残ってしまう。


「初めから、入れなきゃ、いいのに」

「人気ないとか、分かってるはずだよね、分かってるよね」

「色鉛筆やクレヨンと同じだな」

「あ~、使わない色がいつまでも長い、長いよね」


 クレヨン!

 懐かしいぞ、なんだか。


「金色とかあったよね」

「金銀、一枚ずつしか入ってない」

「そうそう! とっておいたら誰かに使われちゃったり」

「あ~! 悔しいやつ!」

「できた~!」


 一番乗りはげんたくん、意外。


「手裏剣!」

「わ! かっけ!」

「すごい」

「みせて~」


 おお、げんたくん一躍人気者!

 うさ衛門先生の注意。


『投げないでくれたまえよ』

「りょーかい」


 危ないかな?

 先端、尖ってるもんな。


「おはなー」

「わあ、チューリップだね!」

「わたちもおはなー」

「可愛いね~!」


 小さな子どもの指で一生懸命折った折り紙が、続々とできあがる。


「せんせーおえかきしてもいい?」

「いいですよ。じゃあペンを出しますね」

「やったー」


 にこにこで先生が出してくれるペンを待つ。

 この子だけ、お絵かきするのかな。


「どうぞ」

「わーい」


 おえかきの子はペンを選ぶと、自分がさっき折った折り紙に何かを描き始めた。

 そうか、折るばかりが能じゃないな。


「かけたー」


 おえかきの子は、あっさりとそう言って、次の折り紙を手に取る。

 出来映えだとか仕上がりだとか、何にも気にしたりせずに、何を作ろうとかすら考えずに、好きなように折り、描きたいように描き、済んだら次の折り紙。

 お片づけの時間が来たら、初めて自分の作ったものを見て、こんなに作った!と驚いて。


 無心だな。

 誰かが止めるまで、もしくは他のことに気が向くまで、没頭する。

 こんな風に遊べるってこと、素直に羨ましい。

 おれも昔、こんなだったのかなぁ。


「なんか、集中しちゃうね」

「うん。おれ折り紙、こんなに一生懸命折ったことない」

「忘れてるだけかもよ」

「あー。そうかもしれない」


 忘れてるだけだ。

 小さい頃、一生懸命遊んだこと。

 力一杯遊んでたこと。

 みんなそんな子どもだった。

 忘れてるだけだ。


「これ? くれるの? ありがとう」

「いいよ」

「はい、そろそろ終わりです」


 りょうこ先生の声が響き渡る。

 もう終わり?

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