第85話 もれる! もれるもれる!

 年少からのクラスは一階にある。入り口からすぐのクラスは年長、間に年中、奥が年少クラスだ。

 おれ達は静かに部屋へ向かったけど、すでに色んな声が聞こえてくる。


「失礼します……」


 咲良がそっと戸を開け、小声で言いながら覗き込んだ。


「あ、いいよ入って入って~」


 明るくそう言って振り向いた、先生。

 思い思いの場所で絵本を読んでいた子ども達も振り返って、一斉にしゃべり出す。

 声、めっちゃ細くて高い!


「ちがう」

「ちがうおねえさんだ」

「せんせーあそんでいい?」

「まだ絵本を読んでてくださいー」


 なんか、サイズ感もそうだけど、3歳って、しっかり子どもだ!

 ちっさいのはちっさいんだけど。

 しゃべるし自分でいろいろしてる。

 絵本読むってことは、字も読めるのか、すごい!

 お揃いのスモックも着てるし、名札付いてるし、上靴履いてる。思い浮かべる園児そのものだ。


「私はりょうこ先生です。これからおやつ、室内遊び、降園です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いしま~す」


 りょうこ先生は部屋の隅を見ながら、カーテンを開け、言った。


「おはようございます! おふとんを片付けましょう」


 見ると、3、4人が小さなおふとんの上にいて、先生を見てる。

 すぐ起き上がる子もいれば、まだごろごろしてる子もいた。


「おはよ~」


 咲良がスッとそっちへ行って、ぺたんと座り、話しかける。

 おれも、ハッとして側へ行く。


「ちがうおねえさん?」


 おめめをごしごししながら聞いてる。


「さくらです」

「たきやです、おはよ~」

「……」


 寝ぼけているのか。ぼ~っと、こっち見てる。


「これからおやつなんだって。おふとん畳もうよ」


 サッと畳む子がいた。


「お、早いね! すごい、ちゃんと畳めるんだ」


 畳めるし、運べる。薄い、小さなおふとん、おれが寝るにはたぶん倍以上は必要な大きさ。


「絵本をしまいましょう」


 起きてる子にも指示を出すりょうこ先生。そういえば、年少クラスには一人しか先生がいない。人数はすごい多いのに!


「何人いるんだっけ」

『20人ですよ』

「多っ!」


 輝夜の教えてくれた人数に驚きながら、眠そうな子どもにお片づけを促す。

 やってあげちゃ、だめ。


 げんたくんは先生を手伝っておやつ用のテーブルを出している。


「トイレに行って、手を洗いましょう」


 トイレは、0、1、2歳児共有だった二階のものより小さいスペースに、子ども用の可愛いトイレが用意されていた。


「じゅんばんこね~じゅんばんこね~」


 ゆめさんはどうしても渋滞しがちな個室トイレの交通整理。男の子用のは半個室で、くるくる早いのにな~。


「もれる! もれるもれる!」

「あわわわ!!」


 後ろに並んだ男の子がコカンを押さえてピョコピョコしてる。

 じゅんばんこだけどどうしよう! どうすれば! どうしたら!

 ゆめさんパニック!

 そこへりょうこ先生が助け船。


「ごめんねたけしくん、さとしくんを先にしてあげられる?」

「い~よ! おれへいき!」

「ありがとうね」


 男前、たけしくん! 優しいな!

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