第84話 大当りだね、マコちゃん

『午後の予定を伝えよう。

 休憩が終わったら、クラスを変える。

 ゼロ歳児クラスは年中クラスを、

 1歳児クラスは年少クラスを、

 2歳児クラスは年長クラスを、

 年少クラスはゼロ歳児クラスを、

 年中クラスは1歳児クラスを、

 年長クラスは2歳児クラスを担当する』

「赤子でござりますか、ヤバいでござりまする」


 シーンとしてると聞こえる、比護杜なつきさんの声。


「確かにヤバい。おむつ替えあった?」


 ペアの佐々木ゆうくん。

 二本田りらさんが答える。


「あったよ~。大丈夫男子は男子の担当だから~」

「おむつ替えなんてばっちいことできん」

「そこ?」

「手は洗って消毒するから大丈夫だよー」


 佐々木くんは腕組みで断固拒否の構え。


「男がおむつ替えなんかできるか」

「男はそんなこともできないの? 無能~」


 マコちゃんがまぜっ返す。


「無能??! 無能じゃねぇ!」

「無能~アハハ」

「マイルなんか一人で全部やってたよ? めっちゃお父さん! ウケる!」

「マジか」

「全部やらせんなし」


 仕事も家事育児も全部やらせそう。

 ヤバいのはキミだ、マコちゃん。


「だってすごいんだよ?! 赤ちゃんみんなマイルに寄ってくるんだよ? ひざにも背中にも赤ちゃんだよ? それをニコニコして相手してるんだよ? すごくない?」


 ほんとにすごい。

 中学生とは思えない。既に父なんじゃないか、マイルくん。


「わーすげー」

「驚きの包容力」

「すごいのよ!」

「理想の夫ナンバーワン」

「大当りだね、マコちゃん」

「えっ、違っ! 違くて、マコはお金持ちの奥さんなの!」

「じゃあ後は年収上げるだけだね~」

「違くて! イケメン! カッコイイ人!」

「ハイハイ」


 人知れず、見習いたい……と、喉をごくりしている小林くんに、八嶋さんだけが気付いていたのだった。


 午後からはおれ達は年少クラスか。

 年少ということは、3歳児ってことだ。2年くらいの違いなら、大したことないかも。

 赤ちゃんと年長さんなら、もう見違えるほど違うんだろうけど。


『3時になると一部の子どもが降園をはじめる。

 それが終わったら、年長クラスに残った子どもは全員集まるから、君たちはそれで今日は終わりだ。あと少し、頑張ろう』


 わ、あと少しじゃん!

 2時半まで休憩したら、ほんともう1時間くらいしかないのか!


 一日が早え!

 あっという間!

 おれなんもしてねえ!

 子どもと遊んでただけだ!!


 これでいいのか?

 良かったのか??

 いやむしろ、もっと遊ぶべき?

 もっと全力で遊んで、咲良とも一緒に楽しむべきじゃない?


 あとちょっとしか時間ないなら、もう後悔しないようにがんばらなきゃ!

 そうだ、だって決心してきたじゃん、おれ。


 家帰って、だるい気持ちになんないように、ああすれば良かったこうすれば良かったって、ウジウジしたくないって!


 もう遅いかな?

 でもまだ終わってない。

 今から一生懸命やって、たくさんしゃべって笑って過ごしたら、たぶん後悔だけはしない。

 マイルくんみたいに、とはいかないだろうけど、おれもやってみる。


 だって子どもって面白いんだもん。

 好かれなかったらちょっと悲しいけど、相手してもらえたら嬉しい。

 子どもを挟んだらいっぱい話せるし、きっと楽しい!


 よし、がんばるぞ。

 おれはやるぜ!

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