第83話 おこられた

「おまえらうるせぇなあ」


 突然、場の雰囲気を破壊する声がした。

 みんな一斉に振り返る。


「メシくらい静かに食わせてくれよ」


 イスに大きく背中を預けて、彼はお茶を飲む────細川くん。胸の名前は「りゅうや」。最初の研修で咲良の向こうに座ってた、すっごい細くて全然しゃべらないやつ。


「アンタは心配じゃないの?! 仲間だよ?」


 すぐ言い返すマコちゃん。

 でもおれは、彼の言葉にすぐ反省していた。

 ハジメにだって、知られたくないことはあるだろう。


 数々の動画で、他の誰よりもよく知ってると感じてた。同じメンバーだって仲間意識もある。

 でもそれだけで、何でも追求されるとしたら、それは嫌だろう。

 マコちゃんのセリフを鼻で笑って、りゅうやくんは言った。


「まあ座ってメシ食えや。時間なくなるぜ」


 確かに休憩時間は2時半までだから、そんなにゆっくりはできない。

 質問を鼻先であしらわれたマコちゃんは、「答えナサイよ!」とぷんすか。

 しかし、それ以上りゅうやくんがしゃべることはなかった。


「あー、みんな、心配してくれてありがと。大丈夫やで。弁当食べて」


 ハジメが取りなして、ガタガタとみんなは座り、昼ごはんの続きをはじめた。


「なんでムシするのよぅ」


 マコちゃんもそう言ってぶすっとしながら、席についた。

 りゅうやくんの向こう、いちばん奥の端っこの席では、彼のペアの中村マナさんが座ってる。

 ヘッドホンにゴーグルを付けたままで、弁当をジッと見ていた。


 ────もしかして、おれ達がうるさかったせいで、食べられなくなったのか?


 そう思い至っておれは、りゅうやくんが彼女をかばった可能性にも気がついた。

 そうなのか? だったらほんとに、おれ達が悪かった。


『君たちは二つの点で反省しなくてはならない』


 うさ衛門先生の声がした。


『一つ目は、誰にでもプライベートはあり、追求する権利はないということ。もっとも、心配することが悪いという訳ではない。本人が断っても、場合によっては深刻な心理状態になっていることがあるから、親しい者が聞くこと自体は悪いことではない。

 ただ、君たちにはケアウグイスがついている。彼女達は君たちの味方であるから、彼女まで本人と同じことを言うならば、まず間違いなく大丈夫なのだ。心配する心は、しばらく見守る気持ちでおさめよう』


 行き過ぎはよくないよな。反省。


『二つ目は、食事中に騒いだこと。本来食事は楽しくとるものだ。しかし、人が大声を出したり、立ち上がったり、ざわついたりする環境では、落ち着いて食べることはできない。子ども達の食事風景を君たちは見たはずだ。

 そしていつもは君たちも、そうしていたはずだね。食事をするということは、人間にとって大切なことだ。大事にしよう』


 おこられた。

 おれ達はシュンとして弁当を見つめた。

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