第75話 ピギャ──!!

 そこへ、形容しがたい泣き声が響きわたる。


「わあああ! ぎゃあああ!」

「ハイハイ落ちる落ちる」

「あらあらアジマルくんおはよ~」

「すいませんお願いします」

「ピギャ──!!」


 小さな体であらん限りの音量を上げて泣き喚いてる。

 無理矢理な感じで引きはがして、アジマルくんを受け取るハルコ先生。あ、あばれるあばれる、お母さん冷静に落ちる落ちるって言ってたけど、ホントに落ちるぞあぶねー、アジマルくん、お願い落ち着いて!


 背中をポンポンしながら抱っこして、お母さんが見えなくなると、だんだんヒックヒックに泣き声は落ち着いてくる。


「落ちるかと思ったです」

「ヒヤヒヤするけど、落とさない。絶対落とさない」


 すごい。

 っていうか、いや当たり前なんだろうけど、でも。

 さて気が付いたら足元には、ブロック積み木おもちゃの車プラレールに電車などが広がって、とても賑やかになっていた。

 おれもみんなも、なんとか子どもの遊びに付き合ってる。


「これもくっつけてみて」


 プラレールの線路をアジマルくんに渡しながら、男の子ってやっぱ電車や車が好きなんかな、と思う。

 アジマルくんは言葉はしゃべらないけど、あーとかんーとか、発する声の雰囲気で意思は通じる気がする。


 ちっちゃい手で上手にレールをつなげる、ぷくぷくしてくびれのある首、手首、足首、落ちそうなほっぺ、コンパクトな身体。

 んしょ、と立ち上がったり、ぽてっと座ったり。

 遊んでるんだけど、すごい真剣なんだなぁ。


 そして何気なくその瞬間は訪れた。

 せっかくつなげたプラレールを外して、直接電車を乗せたくなったらしい。

 移動して、持ち上げて、おしりを向けて、座った。


 おれの、ひざに。

 おれの、ひざに!

 軽い!

 軽いよアジマルくんのおしり!


 そして、わかったよ。

 可愛い! 可愛いよ! 1歳児! めっちゃ可愛い!


 その感動を伝えたくて、声をかける。


「咲良~」


 振り返った咲良は、? の顔。

 ω の口で? の顔はヤバいな可愛い過ぎる。


 指差しや身振り手振りで、アジマルくんがおひざに座ってくれたことを伝えると、驚いた目になって、なぜかふくれた。

 なぜ怒る。


「ミミカちゃんおいで~」


 早速ミミカちゃんをおひざにお迎えする咲良さん。

 うらやましかったのね。


 しかし、子どもの背中は小さくて柔らかい。ふわふわ。

 こんなに小さいものが、器用に動いて遊んでるところを見るのは、不思議な気分だ。

 みんなはどうかな、と思って見回すと、お父さんが一人座ってた。

 しかも赤ちゃんまみれ。


 大人気いちにー、さん……

 ひざに二人肩につかまり背中にべったりすごいなお父さん!

 先生がおれに気づいて、口元を押さえ気味に笑ってる。

 あれ、親御さんは全員帰ったと思うけど……??

 マコちゃんがおれに気づいて大爆笑!


「うける! 超うける! マジ親父! おとーさん!」


 腹抱えてヒーヒー笑ってる。

 それで分かった。

 石上くんか……

 可哀想っていうか、うらやましいっていうか、うーん、他の追随を許さない包容力!

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