第76話 おやつもぐもぐタイム

 童謡のメロディが流れて、ふと時計を見ると9時近く。


「さあ、みんな、お片づけの時間だよ~」


 ハルコ先生が大きな声で言った。

 言われても遊び続ける子、先生を見たけど、おもちゃを握って動けない子、さっと立ち上がって持ってた絵本をしまう子、色々だ。


「時間だって! お片づけしようか」


 咲良がミミカちゃんに声をかけたけど、ミミカちゃんは固まってうつむいてる。

 お片づけ嫌なのかな。


「ミミカちゃんお片づけだよ~」


 咲良が再度声をかけたけど、ん! と身体を揺らしてイヤのご様子。

 さすがに困って先生を振り返る。

 それに気づいてアキコ先生が「さあ片付けしようね~」と、さっさと片付けに入る。

 後は手に持ってるブロックだけになると、「はい、どうぞ」と言っておもちゃ箱の口を向けてあげた。


 ミミカちゃんはその中に持ってたブロックをちゃんと入れた!

 おりこう!


「はいよくできました!」


 0歳児はそのままみたいだけど、1歳児のクラスは小さなイスを、丸いテーブルの周りに並べて、朝のごあいさつ。

 先生もおんなじ小さなイスに座ってるの、なんだか可愛い。


「みなさんおはよーございます!」

「おはよーございます!」


 実際は空耳レベルの言えてなさだけど、どっから声出してんの的な可愛いさにあふれてる。

 ハルコ先生がオルガンの前に座って、伴奏をはじめる。

 おうたを歌うんだ。

 おれたちは知らない歌だけど、いっしょうけんめい歌ってて、微笑ましい。

 音程とか何それだけど。

 歌詞も言えてないけど。

 隣の2歳児クラスからは、少し前からおうたが聞こえてて、今はまた違う歌になった。

 すごい、保育園って感じ。


「きょうのおはなしは、こぐまちゃんのみずあそび」


 読み聞かせ。

 初めて聞いたはずはないのに、初めて聞いたみたいな気がした。

 なんだろう、超新鮮。


「おやつにしましょうね」

「ハーイ!!」


 おれたちはおさらにおやつを乗せて、運ぶ係と、小さなコップにお茶を入れて運ぶ係に分かれた。

 おやつ、小さなどうぶつの形のクッキー。

 量も少し。おれだったら一瞬で食べちゃう量。


 配られると、嬉しそうな顔でクッキーを見つめ、「いたーだきます」をして、小さなおててで器用に一つ一つ食べてる。

 つまんだクッキーを見せて「?」ってしてる子に、先生は「クッキーだよ」「ねこちゃんだね」と答えてる。

 おれたちは座る子どものまわりに座って、おんなじように話しかけてみる。


「おいしいね」

「キリンさんだね」

「……イン」


 言えてないけど言えた!

 簡単な言葉を言う子もいる。


「チャ! チャ!」

「お茶だね、冷たい?」


 会話になるようなならないような、でも通じるような。

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