第74話 連絡帳は宝物

「おはようございま~す! ミミカちゃんおはよ~」


 突然ハルコ先生が声を上げた。見ると、女の人が来ていた。最初の保護者さんだ。


「お願いします! わあ、中学生?」


 一番登園はミミカちゃんというらしい。

 ちっちゃ!

 膝の上くらいしかない!

 お母さんと手をつないで、反対のおてては口に入ってる。ハルコ先生が抱っこで受け取る。


「そうです、今日からお願いします」

「みなさんお願いしま~す」


 連絡帳を置いたりしながら、ぺこりとおれたちにお辞儀してくれた。


「マスクめっちゃ可愛いんだけど! じゃあ頑張ってください~お願いします」

「行ってらっしゃ~い」


 ミミカちゃん、バイバイしてる。

 お母さんは明るく出て行った。


「ミミカちゃん、おしっこ出たかな?」


 ハルコ先生は抱っこを下ろす間におむつを確認したり、体温を測ったりした。流れるような動作で体温を連絡帳に記入する。この間、1分も経ってない。


「じゃあ何して遊ぼうか~、何がいいかな? 持っておいで」


 そう先生が言うと、うん、とうなずいて立ち上がり、もつれたような歩き方でおもちゃ箱に向かう。


「かっ……!」

「?」


 隣から声?


「かっ……!」


 後ろからも??


「可愛いいいぃ~~!!」


 咲良とゆめさんが顔見合わせて合唱!

 確かに可愛いけども。


「可愛いよね! 可愛い!」

「可愛い! 可愛い!」


 ……女ってすぐ可愛い連発するよな。

 と、つい刈谷くんのようなことを思ってしまった。


 ミミカちゃんはプラスティックでできた、中身のない大きなブロックを選んで、フタを開けて遊び始めた。


「ひとりで遊びますが、せっかくなので遊んであげて下さい」

「わ~、は~い!」

「えっ、なんて声かければ……」

「一緒に遊ぼう、とか」


 女子ーズはミミカちゃんと遊ぶようだ。


「いっしょにあっそぼ♪」

「……」


 咲良が声をかけながらそばに座ったけど、ミミカちゃん反応ナシ。

 そういうものらしいけど、やっぱりどうしようって気分になるよな。


「へぇ~、こんなおっきいブロックもあるんだね! これ使う?」


 咲良さんめげずにブロックを差し出してみる。


「……」


 ミミカちゃん振り返った!

 そして、コクンとうなずいてブロックを受け取った!

 おお!


「すごいね、いっぱいくっつくね! これも使う?」


 咲良さん押せ押せ。


「ぃやだやだヤダヤダヤダ~!!!」


 大声で泣き叫ぶ子どもの声が廊下を通り過ぎていく……

 チラッと、海老反りの男の子が抱っこされて連れて行かれるのが見えた。

 あれは隣の2歳児クラスか……?


「大変だな……」


 泣いてても、預けないと仕事には行けないもんな。それをなんとかする保育士さんすげぇ。


「おはようございま~す」

「おはよ~しんのすけくーん! さあ、おいで~」


 次に来たのは赤ちゃんだ。サトコ先生が抱っこで受け取る。


「先生、ごめんなさい。連れてくる間にウンコしちゃいました」

「わかりましたー。ママにバイバイしよう。バイバイ~」


 おててをふりふり、先生のあやつりバイバイ。


「バイバイしんのすけ、お願いしまーす」

「行ってらっしゃ~い」


 お母さんを見送って、検温、オムツ替え。サトコ先生も流れるような素早さ。

 先生たちは記入しながら、連絡事項にも目を通す。


「連絡帳には何が書いてあるんですか?」


 ミミカちゃんの連絡帳に目を通し、しまっているハルコ先生に聞いた。


「クラスとか園によって違うけど、体温とか食事や睡眠が取れたかどうか、気付いた事。私たちは園での様子、気になることなんかを書く。育児の相談なんかもできて、いいと思うよ。送り迎えの時間はバタバタして、話する時間もないし」

「交換ノートみたいですね」

「凝ってる人なんか写真貼ってくれたりするんだよ。一年終わったらまとめて返すので、思い出になるから」

「へえ~」

「おれのもあんのかなぁ」

「聞いてみたら?おうちの人に」

「ハイ」


 帰ったら聞いてみよう。


「見せて、もらっても、いいです、か?」

「残念ながら個人情報だから見せられない。ごめんね」

「あー、大丈夫、です」


 おれもちょっと見たかったけど、仕方ない。

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