第73話 消毒とマスク大事

 おれたちは1歳児クラス。どうやら0歳児クラスと同部屋みたい。


「おはようございます」


 保育士さんがおれたちを見て挨拶してくれた。


「おはよーございまーす」

「上靴はここで脱いで、入り口の靴箱へしまってください」

「はい」


 ぞろぞろ、しまって戻る。


「今日一日、よろしくお願いします。私はサトコです。0歳の担任です」

「マイコです。同じく0歳の担任です」

「アキコです。1歳の担任です」

「ハルコです。同じく1歳の担任です」


 担任って、学校の先生みたい。二人ずつのようだ。

 先生たちはみんな、母さんくらいの年に見えた。優しそうで、にこやか。


「0歳児と1歳児は間の仕切りで分かれています。転ばないように気をつけてください」


 なるほど、ひざ下ほどの仕切りがある。大人ならひょいっとまたげるくらいの仕切り。


「そろそろ登園時間ですが、来る時間はまちまちです。

 登園したら、保護者は子どもを私たちに渡し、連絡帳を起き、お着替えセットをロッカーにかけて出勤します。君たちは私たちの指示に従ってください」

「はい」

「これにひらがなで下の名前を書いて、胸に貼ってください」


 と、渡されたのは、白いガムテープとマジック。

 合理的だ。

 たきや、と書いて胸に貼った。

 石上くんの胸に、まいる、って貼ってある。


「まいる! ウケる!」


 下の名前を知らない人がおれ以外にもまだいた。と思ったらマコちゃんじゃん。興味ないんだなー。

 0歳児は、まこ、まいる、りら、だいすけ。

 1歳児は、ゆめ、げんた、さくら、おれ。

 マスクを配られながら説明は続く。


「隣はトイレになってて、向こうの2歳児クラスと共有です。子ども用です。オープンなので、したくなったら廊下奥のトイレを使ってください。

 入り口横は給湯室です。ミルクを作ったり、おやつの時間に使います。基本、入らないでください」


 そういう手伝いはしないらしい。


「君たちは直接保護者の方々とやり取りしません。

 子どもに質問されても、直接は答えないでください。

 あくまで私たち保育士のお手伝いをする、というポジションです」


 念を押されているのか?

 余計なことをするなって。


「さて、0歳児の子はそちらへ移動してください」

「は~い」


 ぞろぞろ、柵をまたいで移動する。ここでそれぞれのスペースに分かれた訳だ。


「1歳児クラスは12人、0歳児クラスは6人です。隣の2歳児クラスも12人です。基本的に男の子は男の子、女の子は女の子のお世話をお願いします」


 こんな小さい子でも、セクハラとか色々と問題あるんだろうなー。


「今日のスケジュールを説明します。

 園児たちは体温と排泄確認後、9時まで自由に遊びます。

 朝のご挨拶、おやつを頂いて、今日は気温が高いのでプール遊びをします。

 戻ったら昼食、お昼寝です」


 プールがあるんだ! 凄い!

 咲良と目が合うと、めっちゃキラキラした笑顔で喜んでる。ぐはっ!

 おれのダメージをよそに説明は続く。


「君たちはそこで休憩に入って、午後から隣のクラスに移動します」


 そこでアキコ先生が手を叩いた。パンパン!


「大事なことは消毒です!」


 突然なに?


「おむつ替えだけでなく、常に消毒することを心がけてください」


 ドン!


 指差す先に四角いボックスがある。

 ハルコ先生が手を出すと、ウィーンと音がして消毒液が噴出した。両手をこすり合わせる。


「手洗い後このようにします」

「季節もありますが、肌を露出するので感染症を防ぎたい。保育園は集団感染になりやすいから、絶対やってください」

「はい!」

「それから、先程配ったマスクをしてください」


 言われた通りマスクをすると、ふつうの白いマスクだと思ったら、こっち見た咲良の口元が* ω *だった。

 なんだこれ可愛い過ぎる。


「ブフォッ!」


 吹き出したのはおれ以外みんな。

 思わずマスク外して見たら、゜∋゜だった。

 おれ、どんな顔してるんだ??自分じゃわからん!


 見回すと、石上くんがニャースになってて、佐藤くんが ∀ だった。マコちゃんと目が合って、ブフォッ! と吹き出されたけど、一瞬見えたマスクのお口が × だったので、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 ちなみに梶口さんは // ∇ // 、井川くんはキバ生えてた。


 おれだけ吹き出されるの納得いかない。

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