第62話 新しい研修は実技

 部活を終えて寝転がってたら、輝夜に声をかけられた。


『あのー、滝夜さん』

「なに?」

『どうして予習サイトにアクセスしないんですか?』


 あれから、そういえば一週間が過ぎていた。そんなに経っていたとは、時間の流れはおれが思っているよりも早いらしい。


「ああ、なんとなく」


 それ以外の理由もなく、ほんとになんとなくそのままになっていただけなんだが。


『ざっと見るだけでも見ましょうよ』

「ああ、うん」


 仕方ない、見るか。

 そう思って手紙を探す。机の上に置いたはずだから……


「あれ?」


 山と積まれた教科書とプリントが視界を阻んでいるせいで、ガサガサすれども姿は見えない。


 あるはずなんだけどなー。

 ずらして見つける方法に限界を感じて、本棚に整頓する方法に変更すると、くちゃっとなって手紙は現れた。


「あった」

『滝夜さん、机の上は物置にしない方がいいと思います』

「まったくだ」


 分かっちゃいるのにやめられない。


 手紙を開いてコードを読み取る。

 開いたページには大人計画のロゴが入って、下には分かりやすく色分けされた、ポップなバーが並んでた。


 はじめに

 ~誕生まで

 ~5歳

 ~12歳

 ~18歳


 一応、18歳までが子どもカテゴリのようだ。

【はじめに】を読んでみる。

 ─────────────────

 ヒトは動物だ。

 生き物だから、生命を維持するのは幼いほど大変だ。何故なら未熟だから。

 加えてヒトは、社会的動物である。

 特性として、過去の情報を学んで知識とする動物だ。

 他の動物より複雑なのは分かるだろう。

 君たちは子どもだったが、育てた訳じゃない。

 今回は育て方を学ぶ。

 よって、成熟した大人としての保護者の役割を理解しなければならない。

 そして、そうやって育てられた自分を客観視すること、それが重要な学びになる。


 子育ては、面白いよ。

 ────────────────


 どういうことだろう。

 疑問に思って次の【~誕生まで】も開いてみる。


 ────────────────

 ヒトがどうやって子どもを持つのか、知っているだろう。そう、卵子に精子が入り込むんだ。

 ヒトも動物だから生殖行動する。動物には繁殖期があるけれどヒトにはない。

 ヒトの生殖行動はだから、ヒトの気分次第という訳だ。

 ────────────────


「……ちょっと待って……」


 どういうことだ?

 これは、これからやることなんじゃないのか?

 この文章は、いかにもうさ衛門先生がしゃべっていそうだ。

 これをこのままやるのなら、おれは予習なんかしたくない。そんなことを望んじゃいないんだ。


「予習ってどういうこと? これやんなきゃだめ?」

『やった方がいいですよ、もちろん』


 輝夜は当たり前のように言う。そりゃ、やってほしいだろうなとは思う。でも。


『だって知ってると知らないでは大違いですよ』

「知らないとダメなの?」

『当たり前じゃないですか、命の問題ですよ?』

「そりゃそうだろうけど……」

『何が嫌なんです?』


 輝夜がぷぅっとふくれた、ような声で聞いた。


「おれはドキドキしながら研修を受けたいんだ。予め知ってたんじゃ、そんなの台無しじゃないか」


 考えてみればこっぱずかしい発言だったが、そう言ったら輝夜は笑った。


『アハハハッ! そういうことですか、分かりました』


 こんな風に笑うなんて初めてだ。可愛い。でもひどい。笑うことないじゃないか。確かに恥ずかしいけども!


『次は座学じゃありません。実技です。だから安心して予習して下さいね』


 実技!

 子育ての……

 いや、さっきの文章、子作りじゃなかったか???

 ~誕生まで、って、どう考えてもヤバいつまり受精という現象から始まったとか、それはつまり……


 え???

 実技??

 子作りの??????

 おれは動揺しながら画面を見直す。指先がブレて、変な動き。ちょっと分かりやすくね? 落ち着け、おれ。

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