第48話 どこへ行ってしまったんだ

「ハジメに協力したかったな……」

『気持ちはわかります。では匿名でしましょう。匿名のアカウントを作りますよ』

「それだとおれとつながってる人には伝わらないじゃん」

『そうですね……。と、いうか、もう遅いです。間に合いませんでした』

「えっ、遅い?!」

『数件の拡散が行われました。次善の策ですが運営に連絡しておきましょう』

「それでどうにかなるの?」

『たぶん……』


 できなかったと聞くと、どんどん不安になってくる。どうしよう、特定されちゃったら、おれどうなるの??


『帰りの際にもらった連絡先、覚えていますか?』

「連絡先?」


 何のことだろう?


『エレベータに乗る前に柳真下やなぎましたさんから頂いた連絡先ですよ』

「柳真下……?」


 なんだそのカエルだかユーレイだかが出て来そうな名前は!

 と思った時、頭の隅に引っかかったその印象。白衣だ────エレベータフロア、小さい身体、黒ぶち眼鏡、その隣にいた彼女。


 胸がツキッと痛んだが、確かにそのチビ、いや女性に何かもらった記憶がある。どこへやったっけ?


「ええと……」


 おれは慌ててカバンの中から探し出す。


 あれ……どこ入れたかな……


 あの時の記憶があんまりない。他のことで頭がいっぱいだったから……

 でもたぶん、大事なものなんだからと、カバンにしまったはず。……たぶん。

 しかしひっくり返しても出てこない。白い────白い、紙。白い紙? 名刺だ。

 名刺名刺、どこだ名刺。

 あー、さして物の入っていないカバンの、一体どこに行ってしまったのか、名刺よ。


 最終的にはカバンの中すべて出して、パラパラ細かいゴミまで追い出したけど、見つからない。


『カバンじゃないのでは?』


 カバンじゃない? え? でもカバンしか持ってってないし……


『昨日着ていた服のポケットとか』

「あっ!」


 そうか、もらってカバン開けてしまったんじゃなくて、ポケット入れたんだ!

 ええと、昨日着てた服は────


 ヤバい!!


 おれは階下へ走り降り洗濯機の前に立った。


「あ──……」


 既に空。当たり前だが、もう昼下がりな訳で洗濯物は外で乾きかけている頃だ。

 慌てて二階へ走り戻り、窓を開けて自分の服を探す。

 階下から「なあにー?」という母さんの声を聞きながら、昨日着てたパンツのポケットを探る。


 ────ない。

 無い。

 え? どういうこと?


『何してるの?』


 母さんからメール。もう、それどころじゃないってば。

 でも、洗濯したとき出してくれたかもと思って返事する。


『昨日着てた服になんか入ってなかった?』

『え? 別に? 上着じゃない?』


 ────上着!!

 そっか、上着着てた!

 あれ、上着どこに脱いだんだっけ。


 部屋をめぐらせると、隅っこに汚く丸まっているジャケットが見えた。


 ……なんかおれ、色々とダメじゃない?

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