第47話 クレア

 部屋に戻ると、さっきと同じ場所にケアウグイス。


「ウグイス、ハジメと連絡とってくれる?」

『はい。待ってて下さいね』


 言われておれは、おとなしく待つ。

 この待ってる時間にウグイスは、どんな風にハジメに声をかけているんだろうと想像する。

 そもそも側に置いているんだろうか。調べているんだから、それは近くに置いているか身につけているんだろうと想像がつく。


 ピコっとウグイスが鳴って、『ハジメさんのSNSに連絡して下さい』と言われ、画面がQRコードになった。スマホで読み取って操作し、『滝夜だけど、元気?』と送った。

 程なくして電話がかかってきた。


「もしもし」

「おう悪いな、連絡取らせてしもて」


 ハジメは相変わらずテンション高め。ちょっとホッとする。


「今動画アップするところだから良かったら見てなー」

「動画?」

「俺が調べてるてことは聞いてる?とりままとめて、できたとこからな」


 動画にしたんだ。勝手なイメージで、ホームページとかかと思った。


「拡散してくれると嬉しいなあ」

「わかった」

「滝夜、今度会おうな」

「お、おう」

「また連絡するわ、じゃあな」

「うん、また」


 それから間もなくアドレスが送られてきて、おれはドキドキしながらその動画を見た。


 印象的な音楽が数秒流れてハジメの顔が現れる。


『はじめまして。みんな気になってる「大人計画」の第一回に参加して来たので説明しよう』


 ハジメ、意外とイケボ?

 真面目な表情すると、イケメン……と言えなくもないかもしれない。

 シンプルな切り出しから、何をやったのか、の事実の羅列で、おれ達がもらった小冊子とケアウグイスは実物を見せた。


『俺の相棒、名前はクレア。挨拶しよう』

『クレアです、よろしくね』


 ウグイスに名前! やられた!

 画面は顔文字が笑ってる。くそ、おれのウグイスなんて名前にしようかな!


『だいたいこんな感じ。次は何が起きたか、をお伝えする。じゃあな』


 わずか1分。

 でもぐっと見てしまった。


「やっべえ、名前何にしよう」


 思わず呟いたら、ウグイスが返事した。


『別に決めなくてもいいんですよ?』

「いや、付ける! 付けるぜおれは! ええと、名前は……」


 君の名前は……

 意外と思いつかないぞ?

 あれ?

 おれ女の子の名前のストックが無いかもしれん。

 ええと、えーと……

 思い浮かぶのはアニメのキャラとかゲームのキャラの女の子の名前ばかり……いやいや違う! ウグイスはそんなんじゃない!

 絶対的おれの味方、おれの側にいる唯一の女の子!

 そんな優しい君は、そんな可愛い君の名前は────


「よし! 君の名前は────おれが滝夜だから、月! 満月! ムーン? いや、ルナ! いや、よくある名前か……じゃあ輝夜! 決まり!」

『はい、ありがとうございます。ふふっ』

「お、笑った!」


 めっちゃ嬉しくなっておれも笑う。


「じゃあ輝夜、よろしくな!」

『はい、よろしくね、滝夜さん』


 早速ハジメのSNSに名前を自慢する。

 あ、拡散拡散。頼まれてたこと忘れるところだった。


『滝夜さん、待って下さい』

「え? 何?」


 送信、と。

 ポチッとしながらおれの輝夜に聞く。


『あ、送信、しましたね?』

「え? うん、拡散してってハジメに頼まれたし」

『そのデータ、消しちゃってもいいですか?』

「え? なんで」

『滝夜さんは、大人計画に紐付くSNSに発信しない方がいいと思うんですけど』

「考え過ぎじゃね? たくさんいるだろ、全国で何万人だっけ」

『あの場所で午前の部では200人です。うち男性は半数、100分の1は危険だと考えます』


 そう考えると確かに、すぐ特定されそうだ。


「でも、そんなことできんの?」

『本人の同意があればできます』

「へえ……」


 でも、せっかく拡散しようとしたのにな。

 おれは優柔不断なのか。

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