第46話 誕生日プレゼント

 一階へ降りていくと、「遅い!」と母さんに怒られた。ごめん。


 朝湖も母さんもすでに食べ終わっていて、片付けられたテーブルの上に、おれの焼きそばだけが待っていた。冷えてんだろな、ショボン。あっためよう。

 ラップをかけてレンジにかけ、待つ。


 ピーと鳴って取り出し、テーブルへ持っていった。座ってから箸がないことに気づいて取りに行く。

 少し食べてお茶を飲もうとしたら、お茶のボトルはあったけどコップがない。おれはまた席を立つ。


「滝夜さん」

「え?」


 母さんは真面目な時、おれをさん付けして呼ぶ。


「何かあったなら、言ってくれていいのよ」

「へ?」

「だって何も言わないじゃん。態度おかしいし」

「えっ? へっ? 別に何もないよ?」


 あからさまに挙動不審、嘘つくのへたくそか。朝湖までうるさくなるじゃん。


「わー、隠してるーなんかあったの隠してるー」

「ねえって、なんも」


 めんどくせえ。


「言いたくないことは聞かないけど、困っているなら言ってね」


 母さんはありがたいね。おれは小さく頷いた。

 焼きそばうまし。


 実際おれは困っている訳じゃない。ただ、感情が揺れてどうしたらいいのか分からないだけだ。アドバイスっていっても、これじゃあ何て言ったらいいかも分からないだろう。


「あと、あんた誕生日何が欲しい?」


 あ、おれ明日誕生日だ。


「うーん……」


 欲しい物はある。あるが、色々ありすぎてどれって言えない。靴とか服とかカバンとかは日常で買ってもらいたいし、パソコンやゲーム機とかは高いだろうし。これ! って決め手がないんだよな。強いて言えばお金が欲しい。でも、プレゼントな訳だし。


「ないならどっか食べに行こうか」

「ないとは言ってないじゃん」

「あるなら言ってみそ」

「うーん……」


 何て言うのが正解なのか。


「ないんだー」

「いやちょっと待って」

「あんの?」

「お金が欲しいなあ~って」

「なんじゃそれ」


 とってもつまらない顔をなされた。だよな。


「ちょこちょこ遊びに行ったりで使うから」

「ええー」


 たった今、カラオケ断ったばかりだけども。


「ええ~」


 超不満顔。

 でもおれは知ってる。母さんは許してくれる。


「うーん、イヤだけど~、うーん、しょうがない、わかった。いいよ」

「やった!」

「ええ~」


 信じられない、って顔で朝湖が頬杖をつく。こいつはまだ、プレゼントが欲しいんだ。お子様め。


 小学生の頃は、おれもまだプレゼントをねだっていたような気がする、と考えを巡らせたら、父さんが死んでからだと気づいてちょっと寂しい気分になる。

 誕生日とかお正月とか、別に喜んでいいのにやっぱりできなくて、余計に気を遣わせてるっていう。


 でも、今そういうの取っ払って欲しい物を考えてみても、思い付くのってパソコンとかゲーム機とか、確かに欲しいけどどうしてもって訳じゃないものしか出てこない。

 そういうのって、少し大人になってきたってことかな。

 だとしたらおれは、プレゼントを言えないことを悪いことだと、思わなくてもいいのかもしれない。

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