第42話 インタビュー
「こんなキャラクターが先生を勤めるとは、想像しませんでしたね」
「そうですね、政府主導のものと思っていたら意外と……」
「そこは中学生に寄せて行ったちゅうことで……」
見慣れたコメンテーターや芸人さんがしゃべってる。話題はうさ衛門先生のようで、画面の隅には先生がふわふわしてる。
「あ、咲良。え? 青野鷹也じゃん! マジ?」
一瞬映ってすぐ隣にいたイケメン男子が映り、そしてまた芸人さんが映る。
「何、朝湖好きなの?」
「や、ユーコがファン。録画しよっかな……」
何となくアイドルなのではと察する。そいつが今人気絶頂のダンスユニット“彩”のメンバー、青野鷹也であることは、そのうち知ることになる。
「あれ、30分? 短くね?」
「あー放送局横断ね」
どうやら各局合同でやる手前、一度に撮影してから編集し、時間を切ってそれぞれ放送する作戦らしい。めんどくさいことするなあ。
「ネットではインタビューだけのやるんだって。アサそっち見ようかな~」
「あらそうなの。じゃ切り替えて」
「は~い」
当事者のおれ抜きで選択はなされた。うん、たいていの決定権おれにはないかもしれん。
画面が切り替わって、花野咲良がイケメンと行儀よく足を揃えて座っていた。
やっぱり遠い。
────こんにちは。今日はこの場にお越しいただきありがとうございます。
「こちらこそありがとうございます」
「お呼び下さって感謝します」
同じ顔同じ声で話してる。でも遠い。
────お二人はそれぞれ、違う会場で参加された訳ですが、どんな内容だったのでしょうか?
質問者は字幕、回答は映像のようだ。
さっき見たような芸人さんぽい発言はなさそう。各局、どんな番組にするかはそれぞれ演出があるんだろうが、大元はこういうシンプルなインタビューだったんだろう。時間も、全体で一時間もない。
「簡単な検査が最初にあって、これを腕に付けました」
────これはケアウグイスですね。
「そうです」
────医療の現場でよく使われるケアウグイスを、なぜこの場で使用するのかには必要性の是非が問われていましたが、どうでしたか?
「意外でしたが、わたしにはとてもありがたかったです」
「僕もそうです。必要に応じてアドバイスをくれたり、これは僕だけかもしれませんが、助けてくれたりしました」
「わたしも助けられました。配られる時に先生は、『これは自分だけの味方だ』と言っていましたが、ほんとにそうだなって」
────優秀なAIが搭載されていますね。そしてその先生、このようなキャラクターなんですが、先生もAIという。
「先生も凄かったです。自分のことをよく見てくれてる」
「全員のことを見ていました。わたし達、大きい声で話してる訳じゃないのに、ちゃんとアドバイスしてくれました」
────その秘訣は指向性マイクと指向性スピーカー。それにケアウグイスとも連係して判断しているんです。
「そうか~」
────どのように授業は行われたんですか?
「男女ペアで座り、結婚相手という想定でシミュレーションをするものでした」
────結婚相手?
「今回僕達が学んだのは、結婚についてでしたから」
────どんな風に学んだんですか?
「結婚に対して、何を望むのか話し合いをしました」
────初対面の人と結婚に何を望むのかについて話し合いをする?
「自分が何を望む人間なのか、知ることが重要だと言っていました」
「おのれを知れと」
────おのれを知れ。
「わたし達意外と、自分がどういう人なのか知らないんです。そしてそれを知らないと、結婚とか就職とか、人生で大きなイベントをやり遂げることができない。特に結婚は相手にそれを伝えることが大事だと教えてもらいました」
「話し合いの大切さを実践したというか」
────『結婚』を学んだというよりも、人生において大切なことを学んだということでしょうか。
「もちろん結婚についても学びましたよ」
「離婚までやりました」
────離婚!
「婚姻届も書いてみました」
────なかなか楽しい授業のようですが、嫌なことはなかったですか?
「僕は、なかったな」
「わたしもありませんでした」
────本当に? 他の参加者では?
「授業についてはなかったんじゃないかな、と思いますけど、聞いた訳じゃないので……」
「ちょっと聞いてみますね。今日の授業で嫌だったって言っている人、いますか?」
────ケアウグイスに聞くんですね。
『少し待って下さい────ハイ、嫌だった、二度と受けたくない、ということを言っている人はいないようです。ペアの人について不満を持つ人はいるようですね』
咲良のケアウグイス。おれのとはちょっと違う声。
────ケアウグイスは、ケアウグイス同士繋がっているんですね。
『ハイ。情報を共有はしませんが、持ち主の希望があれば、答えられることは答えます。友達がたくさんいて、何かあったら聞いてみるような感じです』
────では、トラブルはありませんでしたか?
「トラブル……、授業ができないようなトラブルはなかったけども……なかった?」
『ハイ、ありませんでした』
「むしろつまずいたことが勉強になったというか」
────勉強になった。
「話し合いができなかったことや、ペアの子が嫌だったことや、すごいわがままを言う子がいたりしましたけど、その度に解決することができて、それを目の当たりにすることで勉強になったというか」
「僕もそうでした。ペアの子にひどいことを言う人がいたり、授業自体を否定する人がいましたが、先生や他の子たちで解決できました。そういう経験をすることが為になるなって」
────授業を嫌がる人はいたんですね。
「いました。でもペアで進める授業なので、まわりの人とペアの子で協力し合いました」
────一番勉強になったことは何ですか?
「話し合いの大切さです。人と人とは分かり合えないのが前提として、話し合いがなければ問題が解決しないからです」
「僕は、生殖に関わる本能は強く、いくらでも思い込めるし都合の良い解釈をする、ということ」
────ええと、それはどんな場面の話題だったのでしょうか?
「犯罪は身近な人間から受けるって話からかな」
「その話、ちゃんと他の場所でもしてるんですね」
「あの話はした? 心が追い詰められる前に逃げ場を作れ」
「した。先生すごい」
「すごいね」
────犯罪は身近な人間から受ける?
「家族や友人、恋人など、身近な人間から受ける犯罪は統計的にとても多いので、知っておいて欲しいと」
「別れ話は人が多い場所やメール、間に入ってくれる他人とする方がいいとか」
「『離婚は悲しいことだが悲劇ではないはずだ』」
「言ってたね! よく覚えてるな」
「怖かったから」
────DVやデートDV、ストーカー犯罪など、枚挙に暇がありませんね。さて、お二人は授業を受けて、結婚についてどう思いましたか?
「面白そうだと思いました」
「実際には生活力もなくて、年齢的にだけでなく、結婚はできませんけど、想像できたというか」
────ポジティブに受け取られたんですね。
「はい」
「将来、してみたいと思います」
────ありがとうございました。
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