第35話 お返しあります

「別に、服部さんはブサイクやないで」

「ハイハイ」


 ハジメのフォローは空振りな模様。


「婚約指輪の件だが、確かに昔の風習の名残とも言える。結納の一部だけが一人歩きした感じじゃな。

 過去、又は現在も女性は貴重品だったのだ。価値のある物品と交換でなければ渡せないものだったのじゃな。経済力のある男性でなければ結婚はできない、勢い年の差婚となる場合も多かった。

 結納は贈られた方もお返しをするのが当たり前で、半返しなど額や内容は様々だ。指輪を贈るカップルも、時計などをお返しするのも一般的だ。いずれにせよ場合によっては両家を交えた話し合いが必要だ」


 一瞬の間が空いた。


「……お返し?」


 呆然とした声がした。


「お返しなんてあるの……?」

「ある場合もある、文月くん」


 お返しなんて初めて知った。


「日本人にはお返しの風習がある。今のように結納返しや、結婚してお祝儀を頂いたらまたお返しする。他にも出産祝いや不祝儀にもお返しは存在する。もらいっぱなしは良くないという考えだな」


 お祝いなんだからお返しって変な気がするけども。


「女はなんでももらってばっかだと思ってたんだろ?違ってザ~ンネ~ンで~した~」


 女子を目の敵にしてるっぽい刈谷くんは、一体何があったんだろ。


「マコはそれでいいってゆーイケメンと結婚するからいいの!」

「女は女は言うな!」

「いい加減うるさいぞ、刈谷」


 マコちゃん鬼ノ目さん有沢さん、多勢に無勢、窮地に陥ってしまった刈谷くんの明日はどっちだ!


「一体女が貴様に何をした」

「……べっつに!」

「隠したいなら詮索はせん。いたずらに攻撃しないならな」

「ちぇっ」

「それもやめろ。良くない癖だ」

「……」


 黙ってしまった刈谷くん。やり込めてしまった有沢さんは、どう思っているのか。


「そうやってよ、いっつも自分が正しいって面してさ」

「なんだ。反論だったら聞くぞ」

「ハイハイ上から上から。何でも自分が知ってて聞いて差し上げますって、偉そうに」

「ふむ。偉くはない。そう見えたなら謝る。すまん」

「いらねーよ、違うんだよ、そうじゃない」


 なんだこじれまくってないか?


「刈谷くんから見た女性は優遇されているんだね。それも身近な女性がだ。決して一般的な女性ではない。

 その誰かに似た特徴が見えるとイライラするのは、自分の立場を不当だと思うからだ。

 そういう場合は環境を変えるか考え方を変えるか自分が変わるしかない。

 刈谷くんは是非努力して今の状況を変えて欲しい」


 おれには良く分からないけど、兄弟と差があるのかな。待遇とか成績とか……


「人のこと、妬んでしまったり、拗ねてしまったり、したことある。わたしはそういう世界に入ってるから切り替えてやってるけど、環境がそうだと逃げ場ないもんね」


 そんなことあるんだ、この美少女に。

 ピンと来ずうなずけない。

 妬み嫉み僻み、言葉は知っているけど、はっきりとそんな感情抱いたことがないのは、おれが幸せだってことか。


「簡単に言ってくれる」


 果たして刈谷くんはそう言って黙った。


「有沢くんは、正論を言うと追い詰められる人もいると知ろう。天に恥じない人間は、恥じている人間にとって受け止められない存在であることがある」

「ではどうすれば良かったんだ」

「自分の言葉への反応を見よう。受け止められないようならば様子を見て、相手から話すのを待とう。みんなに聞こえるように相手を下げるのは、感心しない」

「そうか、それは申し訳なかったことをした」


 有沢さんも考え込んでしまった。

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