第31話 結婚という煩雑イベント

「どうして親に言わなくちゃいけね~の? 関係ないじゃ~ん」


 だるそうな体勢で言ったのは刈谷くん。


「家族になるからだ。当然だろう」


 ペアの有沢さんがきっぱり言う。武士みたいな子だな……


「有沢くんの言ったことは半分正解だ。家族ではなく、姻族になる。結婚によって世帯は新しく二人で作られる。ただ一般には家族と言われるな。結婚式をするなら当然、親兄弟や親戚まで連絡が行くだろうし、三親等の範囲では相続の対象になる場合もある。関係ないとは言い切れないのだよ」

「めんどくせ。式とか要らないし相続も拒否すればいいんじゃね」

「相続は受け取るばかりではない。例えば刈谷くんの作った借金を、有沢くんが相続することもある。それこそ拒否すればいいんだが、後から発覚した場合時間切れであることがある」


 イサンソウゾクって、金持ちだけの話だと思ってた、なんとなく。


「ちぇっ、オレの借金かよ」

「想像できるな」

「するな」

「いかにもやりそうだ。貴様は性根が腐っておるからな」

「ちぇっ」


 この二人の間に一体何があったのか、想像するだに恐ろしい。


「さて、次にするのがスケジュール調整だ。成人した君たちには、学校もしくは仕事がある。二人で話し合った内容をこなすのに必要な日程の調整をしなければならない」


 学生で結婚することがないとは限らない。しようと思えば18歳でできるんだ。18歳なんて高三だもんな。


「結婚に関するイベントには次のようなものがある。テキストの8ページを開いて」


 一斉にページをめくる紙の音。

 次も話し合いだったらいいなと、少し思った。


「やろうと思ったらたくさんあり、お金もかかる。全部省略しようと思えば婚姻届を提出するだけでいい。何をやり何をしないかは、二人で話し合い、場合によっては親とも話し合うしかない」


 顔合わせ、結納、式場や披露宴の予約、内容打ち合わせ、準備、新居探し契約、職場や友人への報告、新婚旅行の手配、結婚指輪を選ぶ、招待状またはお知らせのハガキ、式、二次会、場合によってパスポート取得、妊娠していれば定期健診、産院の予約、育児計画の話し合い……


 結婚って、こんなに大変なの?!


「すべてやるカップルでは、非協力的なパートナーとの別れにつながるほど大変なイベントだ。それは育児に次ぐハードルと考える」


 みんなこんなのやってるの? 本当に?


 結婚式なんかめんどくさそうだし披露宴なんかもっと嫌だ。新婚旅行は行ってもいいけど、そうか……新居探さない訳にもいかないし、友達に言わない訳にいかないし……


「さあ話し合いだ。各イベントをどうするか決めよう」


 話し合い、キタ!

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