第30話 犯罪の大半は顔見知りまたは家族友人
「さて、婚姻届について注意事項がまだある。婚姻届は全国どこの役所でも365日24時間受け付けているが、自分の本籍地以外に提出する場合、予め戸籍謄本を取り寄せておき、一緒に持ってくる必要がある。他に持ち物はゴム製ではない二人の印鑑、身分証明書。それから、書くのは消えない黒のボールペン、もしくは万年筆だ。これで婚姻届は提出できる」
おれの手元にある婚姻届は書き間違えたボロボロだけど、確かに記念になりそうだ。
何故なら、
彼女の手で書かれた彼女の名前がそこにあるからだ。
「さて、君たちは結婚すると決意した。一番最初に何をすればいいのだろう」
えっ、と思った。
最初に……?
「親に報告だ」
あ、そうか。
「または保護者親権者にだ。大抵、電話などで『結婚したい人がいるから、今度連れてきていい?』などと話すだろう」
おいおい!
そのセリフ、どこの声優だ! めっちゃイケボじゃねーか!
室内に笑いを含んだどよめきが起きる。
「仲の良い関係なら、以前から話しているかもしれない。また、仲が最悪な関係なら、むしろ気付かれないように慎重になるだろう。これは人による」
仲が最悪な親子関係って、どういうんだろう。虐待とか?
「そしてそれは、予め結婚相手に話す必要がある。何故ならば、場合によっては結婚できないことががあるからだ」
反対される以外にも、結婚できないことがあるんだ。想像もできないけど。
「相手の家族関係を許容できるか否かは、すべての前提だ。これを合意できない相手と結婚はできないと思った方がいい。例えば、『私、介護の必要な弟がいるの』という話をする」
今度はアニメ声の女の子……一体どこに声優使ってるんだ。
「すると、弟の生きている限り続く負担が認められないかもしれない。『そんな弟がいること、何で隠してたんだ』ということを言われ、不信感も芽生えてくる」
ドラマ? ドラマ始まった?
「または、『俺は母親の束縛から逃げてきたんだ。だから結婚しても関係ないものと思ってほしい』と言われるかもしれない。いずれにせよその関係性は当人にしか分からず、たとえ結婚相手であっても推し量ることしかできない。だから、当人を差し置いて関係修復を図ったり、介護施設を斡旋したりしてはいけない」
「これから家族になるのに、冷たくないですか?」
江口のペアの子が言った。
あんな奴のペアなのに、ずっとにこにこしてる、いい人そうな女子だ。ちょっとふとましいけど。
「住吉くん、冷たくはない。拗れた人間関係は、切っても切れない家族だからこそ悪化する。せっかく離れたのに虐待する親の元へ子どもを返すような、元も子もないことをしてしまう危険がある」
そんな深刻な親子、見たことないが、自分の好きになった相手がそうじゃないとは限らないもんな。
「これは結婚とは遠いようで近い話だが、犯罪の大半は顔見知りまたは家族友人によるという統計がある。信頼する人としては悲しいことだが、完全な人間などいない。知識として知っておいてくれたまえ」
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