第21話 儚い命
14. 家族、親戚が増える
15. 交際範囲が増える
16. 冠婚葬祭が増える
「ここからなんか雰囲気が違うね」
彼女が指さすところを見ると、子どもには良く分からない、大人の世の中のごちゃごちゃしたものを代表したような言葉が並ぶ。
しかし、爪、ピンク色でキレー。
「親戚付き合いある?」
「あんましない、と、思う……」
自分はないけど、母さんはあるかもしれないし、はっきりとは言えない。
「うちはもともとなかったんだけど、わたしのせいで色々言ってくるようになって、一時期母が参っちゃった」
「有名人も大変だな」
「結婚、もし大人になってしたとして、アレを一からまたやるのかと思うと気が重いわ」
「そっか、相手の親戚もいるもんな」
ぴんとこないのは、芸能人だからといってキャーキャー言ったり、サイン求めたりする人間が近くにいないからだ。
おれ自身も最初はテンパったけど、話したら普通の女子中学生だし、彼女にサインをして欲しいとは思わない。言ったら面倒くさそうだから、今日のこと友達に話す時も、きっと相手が彼女だったとは言わないと思う。
と、思っていた時期がおれにもありますた。
「もしわたしが継母いじめや親戚に苦しんでたら、助けてくれる……?」
彼女がそう言っておれを上目遣いで見つめた。そしたら光がパァーっと差してキラキラが舞い散って脳細胞が多幸感で麻痺したんだよ──
魔法か? 魔法なのかよ! 何の呪文を唱えたんだこの魔女……
喋れなくなって、曖昧に頷くだけしか出来ないおれを、彼女はやはりというか、いたくご不満であらせられる。
「怒んないで」
哀れなおれとしてはもはや懇願しか術はないのだ。
「怒らないけど……」
さっきのことがあるので大人しいけど、ご尊顔は芳しくない。仕方なくもう一言。
「チャームとかテンプテーションとか使うのやめて」
「はあ? 何それ」
貴女が普通の女子ならそんな風に呆れてもいいんですけどね。
おれは慎重に言葉を選んで、ゆっくり伝える。
「自分の魅力に気づいてください。そんで一般人に使わないでください」
「……」
そう言われた彼女の顔はぽっかーん、というのが相応しいような表情で、まさに言われるとは欠片も思っていなかったのが分かる。
「え……え、と、じゃあこんなことしたらどうなるの?」
そう言って彼女は、そっとおれの手を握った。
どかん!!!!
おれの首から上は大爆発の上吹っ飛んだ。
儚い命だった……
「大変申し訳ありませんでした!」
ぺこり! と勢いよく頭を下げて彼女が謝った。
おれはどうにかこの世へ戻ってきたらしい。ああ、良かった。
「まさか……まさかこんな風になるって思わなくて……」
「クラスの人は普通に友達なの?」
「うん。ずっと小学校から同じ子も多いし。こんな……ああ恥ずかしい。ホントにごめんなさい」
見慣れてる同級生なら、免疫できてるのかもな。
「できるだけ気をつけるけど、もし何かしちゃったらごめんなさい。今みたいに、言ってくれるとすぐやめられていいかもしれない」
「うん、お願いします」
言えばいい、というのは少し気が楽になる。しかしいい娘だなあ。おれ、女子にこんな気を使ってもらったことないわ。
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