第20話 笑った

「わたしがそんな話広げる訳ないじゃん」


 本当その通り。こんな話題はシンプルに通り過ぎよう。


「10番はそれなりに、11番はそうだねとしか」

「あ、上手いこと言うね。完全に同意。次」

「12番、子育てを助け合える」

「今時、助け合わないと子ども育てられないでしょ」


 当たり前だと言わんばかりに彼女は頷く。


「そうなの?」

「え??」


 そういう事情とか、知らないので素直に聞いたんだが、驚かれた。


「ちょっと知らなくて……」

「こんなのひと昔前から常識なんだけど。貴方のうち、どうだったのよ」

「おれんち? どうって、普通だと……」

「『普通』は、各家庭で違うのよ。うちはうち、よそはよそっていうでしょ」

「言うねえ」


 おれんちは、子育てどうだったっけ?


「ええと、お父さん死んだのがおれが小6んときで妹は小4だったから──」

「妹さんいるんだ」

「一応」

「一応って何、あははっ」


 笑った……

 か……可愛い……!


「うちは父が単身赴任だから、母は長いこと専業主婦にならざるを得なかった。その代わり、近くに母方の祖父母が住んでて、色々助けてくれた。わたしがこんな仕事始めた頃はずっと付いててくれたし」

「そうか、大変だよな。子どもだけじゃ無理だし」

「今は信頼できるマネージャーさんがいて、ずっとじゃなくなってるけど、最初は心配してね」

「そりゃそうだろ。芸能界怖そうだし」

「子どもの頃はそうでもなかったけどね」


 おれには想像もつかない世界だ。おれが小学生の頃なんて、遊んでばかりだったのに。


「で、キミは?」


 キミ……


 不思議な感じが胸にこだまする。

 おれを呼んだようで感動するけど、名前じゃないから結局親しくはない、みたいに。複雑だ。


「母さんは在宅で仕事してる。家にいるから、家事はほとんどやってたような気がする。お父さんは普通の会社員だと思う。休みの日は色々連れてってくれたな」

「ふぅん。お母さん、大変ね」

「いつもニコニコしてるから大変って感じはしないけど、そうなんだろうなあ。手伝いも中学入ってからだし」

「うん、たまには他にも手伝ってあげてもバチは当たらないと思う」


 それは思うけど、学校帰ったら疲れてるしやることもあるし、なかなかやれないって想像つく。

 ダメだなあ、おれ。


「収入を二人で支えられる、これって共働きして欲しいかどうかよね。さっきの話と被るけど、わたしの場合、わたしは仕事辞める気はないから、共働きよね」

「いや、男が働かない場合もあるし」

「貴方働かないの?」

「いや働くけど」

「じゃあいいじゃん」

「いいじゃん、って……」


 なんか納得いかないな。


「わたしは特別な理由がない限り、どちらも働く方が良いと思う。働くことって、収入があるってこともあるけど、やりたいことやれるってことでもあると思うの」

「言ってること分かる。そういう意味なら超分かる」

「収入については、働けなくなった時の方が問題だと思うし」

「それも分かる。働けるうちは働いて、ある程度貯金するべきだよな」

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