第19話 恥ずかしくてお嫁に行けない

「もう、ちゃんと聞いてよね」


 おれの肩からすべての力が抜けていった。良かった彼女は女神だった。


「すみません」

「だからつまり、エッチが好きかどうかってことでしょ?」


 爆!


 なななななんてことを……!!

 いやあなたスーパー女優の自覚ありやがんのですかですよこのやろう! こここここんなところで何ですって、いやらしい! おれらみんなちゅーがくせーなんですよ本当は! そんなの常識でしょみたいにサラッとエッチ! エッチ!! とか言えちゃうのあなた! しかもエッチ! がすすす好きか! ですって! それ言うの? それ言うんですかあなた! いやおれじゃなくてア! ナ! タ! ですことよ? エッチが好きとかあなたがですか? いやもうそれどんな顔して聞いたらいいの。おれ既に真っ赤ですよ? もう恥ずかしくてお嫁に行けない。


「ちょっと大丈夫?」


 いやん顔隠してる両手引っ張らないで。


「やだ、何? ……真っ赤? ちょっといやだ……」


 そんなこと言っちゃイヤ!


「ちょっとこっちが恥ずかしいんですけど……」


 この両手、外すタイミング超難易度ヤバすぎ。


「すみませんごめんなさい。ちょっと待って」


 そうは言ってもずっとこのままという訳にはいかない。顔面と内心が落ち着くまで待ってもらった。


「はい……」


 小さな声で了解した彼女は、更に小さな声で何かぶつぶつ言いながら自分の膝を見てる。


「わたしだって恥ずかしいの我慢してイエスかノーかで手早く済ませようとしてあげたのにあんな反応するなんてこっちが恥ずかしいってのどっちが悪いって訳じゃなくてもこの場合わたしが悪いの? 悪くないよね?……」


 聞こえてるってば。

 そうか、彼女も恥ずかしかったのか。

 そうか、良かった。

 なんだか安心してしまった。

 ちょっとホッとしたっていうか、落ち着いた。


 彼女も中学生だった。

 おれとおんなじ、こういう話題に過敏になってしまうお年頃だった。

 大人と混じって大人みたいに仕事している彼女だけど、子どもの部分もたくさんあるんだ。


 つん


「ごめん、ちょっと恥ずかしくて……」


 つんつん


「いっ、いいよそんなの……」


 つんつんつん


「おいっ!」


 え?

 誰かおれの服引っ張ってる?


 振り向いたら江口くんがしゃがんで睨んでた。


「聞けよ」


 ちっさい声で言ってくるが???


「へ?」

「突っ込むところだろ? もっと詳しく聞けよ」

「……」


 つまりコイツは、わざわざおれの席までアヒル歩きで移動してきて、エッチについて彼女にもっと詳しく聞いてみろって言いに来たのか。


 脱力……


「ホラ!早く!」


 そんな小さい声で急かしても、既に彼女に見えてますから……

 コワイものないのかコイツは。


「江口くん席へ戻りなさい」


 ホラ、怒ってる……

 氷点下まで冷え切った声に震え上がってササササーっと江口くんは消えた。


「まったく、バカじゃないの」


 ホントだよ、彼女の怖さ分かってなさ過ぎ。

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