第18話 聞いてなかったわね?

「ええと、じゃあ次、でいい? さっきの、追加ある?」


 気を遣ってくれている。

 なんだか、距離が縮まったような感じがしてこそばゆい。


「デートとかはしたい、趣味は共有しない、大丈夫です」


 うん、とうなずいて、にっこり笑った。なんだろう、すごく可愛い!


「じゃあ続き。愚痴を聞いてもらえる、相談できる、励ましてもらえる。これは似てる感じだけど──」

「愚痴ったり相談したり励まし合ったり、いい関係なんじゃないの? 要は会話があるってことでしょ?」

「うーん、愚痴は嫌かも」

「愚痴って言われたことない。何だろう、どんな感じ?」


 愚痴。愚かで痴れている、すごい漢字使われてるけど、文句を言うってことかなぁ。


「そう言われると、なんとなくしか……。調べたら、言っても仕方のないことを言い立てること、だって」

「ああ! そういう感じかあ。不満を言い募るとか」

「というより、例えばわたしが監督に怒られて、それを関係のない貴方に言う訳。今日監督に怒られちゃってさー、とか」


 それはそれで、頼られてる気がして別にいいんだけど。


「友達でそういう愚痴を言うことってよくあるんだけど、家庭だとどうよ?っていう」

「たまにならいいんじゃない?」

「大人って時間ないんだよね」


 出し抜けに、彼女は言った。


「仕事して、帰ったらご飯食べてお風呂入ってすぐ寝るっていうか……疲れてるっていうか……」


 そうか。

 彼女は、花野咲良はもう、半分大人なのだ。

 おれの母さんみたいに仕事して、家事は知らないが学校にも行ってるんだろう。毎日、いくら時間があっても足りない、そんなことだってあるかもしれない。

 この、普通の中学生のおれでさえ、部活やって帰って、飯食って宿題したらもう風呂入って寝るくらいしか時間ないのに。


「そういう時に、愚痴が聞けるかって話。わたしだったら無理だなぁ。休みの日だったらいいけど」

「程度問題かもしれない。怒られちゃったんだ〜、そうか、ドンマイ、で終わるなら全然いいよ」

「女子だと、そこからが長いの。聞いてよ〜だから」


 どうも、話が長い友達がいるらしい。嫌ならそう言えばいいのに。


「聞かないって選択肢はないの?」

「ないんだこれが。そして逃げられない時を狙って来る」

「わあ……ご愁傷様」


 女同士って大変なんだな。


「一緒に眠れる。無理かも」


 人がいると寝られないってやついるからなぁ。


「おれはどこでも寝れるからな」

「いいなー。羨ましい」

「人がいるところで寝ないといけない時あるの?」

「ある。というか、普通にあるでしょ? 野活とか」

「やかつ?」

「野外活動」

「あー、野活! って、略すなよ」

「え、言わない? 野活」

「言わないー」


 仲良く話してるように見えるだろう。できればずっとこの話していたいくらいのおれだが、たぶん、きっと彼女もそれは同じなんじゃないかな。

 彼女がおれと違うのは、ホラ、視線だ。

 別に彼女の女性らしい部分を見てる訳じゃない。そうじゃなくて、おれがチラチラ見てしまうのは、次の項目、これだ。


 10. いちゃいちゃできる


 いや、これも入るかな。


 11. 子どもを作れる


 何て話したらいいの、これ!

 みんなどうやってスルーしてんの?

 気付いたらみんな、もっと後の方の話してるし!

 しまった聞いておけば良かった。でも人の話に聞き耳立てるのって、やったことないことできない。


「……だからね?」

「えっ、あっ、えっと、あの、」

「聞いてなかったわね……」


 ゴゴゴゴゴゴ……

 地を轟かす音が聞こえますよ……

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