第11話 イケメンがいい!

 看板には「結婚」の二文字がデカデカと踊っている。


 全員が呆然とした。開いた口が塞がらない。


「おいそれどういう意味だよ!」


 お、反応が早い奴がいる。

 頭逆立てて、ルーズな出で立ち。ヤンキーなのか?


「結婚て本当にする訳じゃねーよなあ?」


 イライラとからだのあちこちを動かし続ける仕草、紛うことなきヤンキーさんだ。あまり関わらないようにしよう。


「もちろんここが市役所だからといって届を出すことはしないよ、小林くん。してもいいがね」


 ざわざわっ


 出してもいい?

 いや、おれら結婚すんの?

 結婚?? 結婚ってなんだっけ。


 頭の中でカランカランと教会の鐘が鳴り響く。なんだかピンク色に彩られた明るい光でいっぱいになって、結婚?? の文字が飛び交った。


「結婚」の概念がゲシュタルト崩壊しているおれをよそに、前の方の女子が立って言った。


「私たちは18歳以下なので結婚できません」


 古典的なショートカットの女子はそれだけ言い、すぐ座る。


「服部くんその通り。届を出すという、実習ができるということだ」


 そりゃそうだ。親にも話さないでいきなり結婚なんて、ある訳がない。良かった。


「つまりシミュレーションということだ。そして君たちの隣に座っている異性が、結婚相手だ。挨拶しよう」


 えっ?! ええ~っ!?

 さらっと言った! さらっと言ったぞ、今!

 隣に座ってる異性なんて言ったらこの場合……!

 しかし想像するヒマもなかった。


「先生! 納得いきません!」


 ダン! と机を叩いて立ち上がったのは、さっきエレベータ前で見かけた女子。


「マコはこんな石みたいな人相手にしないし! もっとカッコ良くて優しい人がいい! あの人みたいな!」


 指を指されたのは、やや茶髪の前髪を上げてオールバックにしている男子。確かにイケメンで賢そうだ。良さそうな服を着こなして余裕を感じる。大声で名指しされて、全員の注目を浴びても涼しい顔だ。


 そして石みたい、と言われてしまった男子は引率の先生だった。いや、違う、つまり中学生だったんだな、彼は……


 ものすごい太眉で頼もしい、落ち着いた顔立ち。こんなことになっても、まったく表情に出ていない。


「僕は君みたいな子は願い下げだけど?」


 オールバックイケメンはアッサリと言い放つ。いけ好かない感じだな、鼻にかけてる。

 マコちゃんは悔しそうな顔をして、「あの人に変えて下さい!」とまた違う男に向かって指を指す。


 いいのか、それで……

 っていうか、すげえ品定めしてたんだ、この子。全員初対面なのに(多分)、おれと同じくらいに来たのに……


 指されたのはまたもやイケメンメガネ、だが何を考えているのか分からない無表情。なんかどうでもいい感じ。いっそ迷惑そうだ。


「そんなこと言ったらキリがないでしょ。実際にする訳じゃないんだからいいじゃない」


 そう言ったのはそのイケメンメガネの隣の女子。ちょっといかつい? 顔をしている。


「あなたはアタリだから!」


 アタリ……


 ということは、あの二人以外はハズレってことになるのか。つまりおれもハズレ?

 ひとり静かに傷ついていると、やっとうさ衛門先生が割って入った。


「はい、そこまで~。座りなさい文月ふづきくん。交換はしない。必要ないからね」


 マコちゃんがすごい勢いでぶんむくれたのが見えた。まだ諦められないのか他のペアを見回す。

 そんなことしたら、バレるだろ、おれの隣が!

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