第10話 有名女子中学生女優

「吾輩が君たちの先生であるからして、何でも聞いてほしい。まずは自己紹介だ。吾輩はうさ耳うさ衛門という、生後半年のホーランドロップイヤーだ。よろしく」


 ご丁寧に名前も表示される。そんなに重要か。

 なんと対応したらいいか判断に困ったんだろう、一瞬の間の後パラパラと拍手が起こった。


「お気遣いありがとう。では今日やることを説明する。まず確認だ。机の上には小冊子、ケアウグイス、検査キットがあるかな?」


 それぞれスクリーンに表示されるので確認は早かった。ある。

 腕時計のようなものはケアウグイスというものらしい。


「ケアウグイスを身につけてもらう。利き腕にして、四角い部分をタップで機動する。とりあえず自分の名前をしゃべってくれ」


 そう言われて、画面をタップすると、ほんわり文様が開く。のち「久我滝夜」と言ってみた。


『久我滝夜さん、おはようございます』


 可愛い女の子の声が返ってきた。もちろん会議室はそんな声であふれた。


「これは君たちの声で反応する、小型AIだ。詳しい使い方は小冊子にあるので今は説明しないが、知りたいことは聞けば答える。これは君たちにプレゼントするので、以後研修会の際には着用のこと。大事なことだが、これは君だけの君の味方だ。ずっと側にいてアドバイスしてくれる。無くしたものは唯一無二の味方を失うことになる。気をつけるように」


 大げさだ。


 僕らはみんなそう考えたはずだ。

 でもほんの少しだけ、心に引っ掛かりを与える、そんな言葉だった。


「そしてこちらのキットは今から使ってもらう。ケースを開けて、どこでもいい、皮膚に押し付けてからケースを閉じる。終わった者はこちらへ持ってきなさい」


 いちいち動画で示されるので、すぐに終わる。チクッともしなかったが、血液検査キットのようだ。

 席を立って持っていくとメガネの女性が受け取り、机に置いた収納ケースにはめ込んでいく。


「さて準備はこれでおしまいだ。はじめよう」


 その時、おれの背後のドアがそっと開いた。

 スッと誰かが入ってきて、おれの席に座る。フワッとした、いい匂いがした。

 顔を見て、驚愕した。


 花野咲良!

 花野咲良!

 花野咲良!

 花野咲良!


 あの花野咲良!


 ええええええっ!?

 どうして、えええええええっ???


 テンパっているのはおれだけだった。

 会議室の中はうさ衛門先生の話に集中して、静かなものだ。


 おれもちゃんと聞かなきゃ……


 となりにある華やかな存在感がおれの興味を刺激してくる。

 なんだこの匂い! 着てる服は大人しい感じの目立たない、普通の(と思われる)シャツ・スカート・上着なのに、おれの妹が着ててもおかしくないような服なのに、何でこんなに可愛いのか!? チラチラ見るのは憚られるが、チラチラ見てしまう。そんな挙動不審なおれを知ってか知らずか、花野咲良は涼しい顔で前を見ている。


 ああ、おれこんなにミーハーだったかな。そんなヤツだと思ってなかったよおれ。

 もうこんなにもじゃもじゃしてちゃ、真面目に話なんか聞けないっ!


 でも心配要らなかった。うさ衛門先生の話は誰にとってもスルー不可能だった。


「この研修で君たちは色々なことをしてもらう。仕事をしてもらったり、子育てをしてもらったりだ。そして本日はこれ」


 スクリーンの横には看板が出現し、そこに大きな文字が二つ落ちてきた。


「結婚してもらう」

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