習作200116A 〈冒険者〉
二頭の獣が、左前と右手から〈冒険者〉に飛びかかる。
群れで狩りをするこの獣たちが代々受け継いできた連携攻撃だ。
獲物は、左前にサーベルを振れば右脚を噛みちぎられ、右を向けば左腕を失う。そして、動けなくなった獲物は、獣たちの血肉となるのだ。
しかし、〈冒険者〉は、獣に狩られる獲物ではなく、駆除免許を持つ一流の魔物狩人だ。だから、二頭の獣に飛びかかられた彼がとった行動は、そのどちらでもなかった。
彼は、一方の獣が彼の左腕に飛びかかったまさにその瞬間に大きく大地を蹴った。そして、右脚でその足元を大きく払った。
必殺の跳躍の目測を外された獣は、〈冒険者〉を大きく飛び越え、まず前足で着地した。
獣の後足が大地を踏むことは、無かった。
続けざまに振られたサーベルの峰で後足を激しく叩かれた獣は、もんどりうって大地に転がり、もう一頭の獣と激突することを強いられた。
その次に起こった出来事をみて、〈公証人〉は、目を疑った。
〈冒険者〉は、時計の針が一時を指すときのような角度でサーベルをひるがえすと、彼の右脚を狙った獣の右目の上にある皮一枚を正確に斬ったのだ。あり得ない角度の切り替えしであり、あり得ない精度の斬りつけだった。
斬られた皮の下から血が流れ、獣の右目を塞ぐ。
獣たちは、戦意を喪失して逃げ出し、少女の命は、守られた。
「……お見事です。褒め言葉以外何も出ませんが。あれらは駆除対象ではありませんし」
「わかっている。だから、狩らなかった」
「二頭相手に子供を守りながら手加減ですか。お優しいことで」
憎まれ口をたたきながらも、〈公証人〉は、〈冒険者〉の腕前に内心感嘆していた。
たったいま披露された剣技は、奥義といって差し支えないものだった。このような状況でなければ、山ほどのドゥカート銀貨が喜捨を求める帽子をいっぱいにしていたに違いない。
だから〈公証人〉がその職責を少しばかり越えた「サービス」を〈冒険者〉に提供したのも、無理はなかった。
「北に、地元民がスーバルーカと呼ぶ洞窟があります」
「そこに棲むヒュドラーは、ツェリハルの村から百ドゥカートの賞金をかけられています。退治に向かわれるのであれば、公証人としてお供いたしますよ」
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