習作のうち、掌編又はショートショートであるもの
Aki(IP)
掌編(1頁;800字前後)
冒険者習作
習作200115 〈冒険者〉
〈冒険者〉は、ときの声をあげながら手綱を強く引き、毛むくじゃらの獣と少女との間に愛馬の巨体を滑り込ませた。
「
返事も聞かず、〈冒険者〉は、馬から飛び降りる。
飛び降りた〈冒険者〉は、地面にどうと転がると、獣の柔らかい腹めがけてブーツを跳ね上げた。
獣は、百五十パウンドもあろうかという巨体に似合わぬ俊敏さでブーツを避ける。
勢い余って地面に飛び込んだ〈冒険者〉は、背中から一回転した。
〈公証人〉は、本当にその獣と戦うのかと〈冒険者〉に問うた。
抜き放ったサーベルを獣に向けることで、〈冒険者〉は、その問いに答えた。
彼は、その獣が討伐賞金の対象外であろうとも、少女を見捨てることができなかった。彼が愛馬とともに獣との間に飛び込んだ理由は、たかだか十や二十ドゥカートの賞金ではなかった。彼は、助けを求める子供を見捨てる術を、まだ知らなかった。
四つ足のその獣は、犬歯をむき出しにして〈冒険者〉を威嚇した。そして、サーベルが届かないところまで下がると、ふた飛びで喉笛を噛みちぎれる距離を保ったまま、〈冒険者〉の周りをゆっくりと歩き回った。
冷たい鋼を持ついまいましい人間を戦いの緊張で疲れさせてから、その喉笛を噛みちぎろうという獣の策略だった。
じりじりと時間が過ぎていく。獣は、温かい血の匂いを想像した、
終わりは、獣の背後からやってきた。〈冒険者〉の愛馬が死角から飛び込み、獣の注意をそらしたのだ。
〈冒険者〉は、相棒が作った好機を逃さなかった。彼は、すぐさま前に飛び込んだ。
鋭く突きだされたサーベルの刃がひるがえり、獣の前脚を切り裂いた。決着をもたらしたのは、道場の外で学び続けた〈冒険者〉のみが知る最小にして最良の動きだった。
「私が吟遊詩人だったなら、農夫の娘に身をやつした姫を助けて巨万の富を得た冒険者のことを歌うんでしょうけどねぇ」
この日〈冒険者〉が得たのは、〈公証人〉の皮肉と少女の感謝と一晩の宿だけだった。
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